少年は、ずっと気になっていた。



   気になる



何がそんなに気になっていたのかといえば、そりゃやっぱり、死神の事だった。
死神については、もうその存在自体が気になるもので考えたらキリが無いので、少年は気にしないことにしている。
それでは一体何が気になるのか、それは…

目の前にある、この鎌。


「…でかいよなあ…」


少年は、下手すれば自分ぐらいの大きさであろう死神の鎌を改めて眺めながら、しみじみと呟いた。
ちなみにこの鎌をいつも持ち歩いている危険人物(?)はといえば、なにやら幸せそうな顔で少年のベッドの上に転がっている。
良い夢を見ているようだ。だからこそ、学校から帰ってきた少年がこうやって鎌をじっくりと眺める事が出来たのである。

まあ、これで死神は寝るんだなーという事が分かった。昼寝をするから夜起きていられるのか。
少年は、死神からまた鎌へと視線を移した。


「何で、いつもコレを持ち歩いてるんだ…?」


少年は、この鎌を見るたび気になっていたのだ。この鎌は、毎日持ち歩かねばならないほど重要なものなのだろうか、と。
鎌を持っている理由は「かっこいいから」とか言ってたが。
実は以前、思い切って死神に尋ねたことがあるのだ。
が、


「そうだな、この鎌が重要かと問われれば、そうであるのかもしれないし、そうでないのかもしれない」


と、答えられた。どっちなんだよ、とまた尋ねれば。


「例え自分がこの鎌を重要なものだと言っても、君がコレを重要なものではないと思えば、コレは君にとっても重要なものではなくなる。そうだろう?だからどっちでもないし、どっちでもある」


と返された。結局少年は、死神から納得のいく答えが聞けなかった。


「大体、死神の言葉はいつも難しすぎるんだよ…!」


ブツブツ死神に文句を良いながら、少年は死神をにらみつけた。もちろん、起こさないように随分と小声で、である。


「…でもこれって…重そうだよなあ…」


再び鎌に目を向けた少年は、首をかしげた。そう、この鎌はこんなに大きいのだから、随分と重いはずである。
しかし死神を見る限り、この鎌を重そうに持っていることなどまったくなかった。
いつも軽々と肩に担いで見せてもいたし。


「意外に軽いのかな…?それとも死神の力が異常なだけとか…?…ああ、一体どっちなんだろう…?!」


少年はもう限界だった。気になって気になって、仕方が無かった。
一度、ちらりと死神の顔を見て、少年は、


「よし」


意を決したように顔を引き締めた。そして、わずかにフルフルと震える手を、ゆっくりと鎌の方へ伸ばす。
これを一度持てば、一度でも持てば、きっとその謎が明らかになるであろう。

それを知れば、あの謎ばかり、分からない事だらけの死神について、一歩、近づける気がした。

ああ、あと少しで全ての謎が。と、ちょうどその時、


「ふああ、良い夢だった」
「うわっ!!」


いきなりむっくりと起き上がった死神に、少年は文字通り飛び上がった。
この死神は、発言も行動も唐突すぎる。


「ん、やあおはよう。そしておかえり」
「お、おはよう。そしてただいま」


律儀に挨拶を返す少年のその手の先にあるものを見て、死神は首をかしげた。


「鎌がどうかしたかい?」
「え?…あ!ええっとこれは…その…こ、この鎌、重いのかなーっと思って…」
「何だそんな事か。持ってみる?」


はい、と、死神はいとも簡単に少年へと鎌を手渡した。その鎌を手にした少年は…。


「…重いような、軽いような…どっちなんだろう?」
「重くもあり、軽くもあるんじゃないか?」
「そうなのかなあ…?」


重さは分かったはずなのだがどうにも納得がいかない少年は。それでも一応鎌を死神へと返した。そして、ふと尋ねる。


「…そういえば、さっきはどんな夢を見てたの?」
「ん?」
「良い夢だったらしいじゃんか」
「ああ、あれか…」


死神はふっと楽しそうな笑みを浮かべてると、こう言ってきた。


「秘密」


死神の気になる事が、またもや一つ増えた。


「増えまくりだよ…」


少年の戦いは続く。

03/11/16




 

 

 

















死神は「曖昧」がいいんです。