ある日、死神はこんな話をしてくれた。
果て
「話をしてやろうか」
「話?」
「暇だろう」
「まあ、確かに。どんな話?」
「空の話」
「へえ。ならちょうどいいね、空見てる所だし」
「うむ、では始まり始まり」
「どうぞ」
「空には、果てがあるらしい」
「……果て?」
「そう、空の果てだ」
「えー。空に果てがあるの?」
「そういう話だからな。まあ聞け」
「うん」
「空の果てには、何も無い」
「何も無いの?」
「果てだからな」
「そっか」
「空の果ては、とても暗い」
「暗いんだ」
「空の果てには、上も下も右も左も前も後ろも無い」
「ええ?訳分かんないよ」
「そうか?」
「上も下も右も左も前も後ろも無いんだったら、何があるのさ」
「何も無いんだ」
「……果てだから?」
「そうだ」
「ふーん……。それで?」
「終わり」
「へ?」
「空の果ての話は、これで終わりだ」
「何だよそれ。オチも何も無いの?」
「うーん、無いな」
「何かこれ……話でもないんじゃない?」
「そうかもしれないな。ただ」
「ただ?」
「この話を教えてくれた人は、こう言っていた」
「何て?」
「何も無いその空の果てこそが、世界の中心なのかもしれない、と」
「果てが?中心?」
「そう言っていたな」
「矛盾した話だなあ」
「そうかな」
「え?」
「本当の世界の果てというのは、実は世界の中心なのかもしれないよ」
「……じゃあ、中心には何も無いの?」
「そうなるな」
「ここには、色んなものがたくさんあるのに」
「ここに色んなものががくさんあるから、中が空っぽなのかもしれない」
「かもね」
「……しかし」
「ん?」
「この話自体、中に何も無い話だな」
「そうかな」
「……何か、あるかな」
「分からないけど、少なくとも暇つぶしにはなったよ」
「そうか」
「そうだよ」
「じゃあ、こんな話も、捨てたものではないな」
「うん。……ああ、日が沈むね」
「そろそろ帰るか」
「そうしよう」
太陽は、空の果てへと沈んでいった。
05/03/31