手紙は自分の思いを込めて。



   手紙



死神は頬杖をついていた。そしてテーブルの上においてあるプリンを片方の手ですくって食べる。
もぐもぐしながら、それでも頬杖をついたままだ。
向き合って座っているのは、少女だった。不敵に笑いながら右手にペンを持っている。
テーブルの上においてあるのは、可愛らしい便箋だった。


「さあっ!プリンあげたんだから私の手伝いしてもらうわよ!」
「そういうのは早く言って欲しかったなあ。食べた後に言われても」
「どうせ先に言ってもプリン狂のあんたなら食べてたでしょ、同じよ同じ!」
「時と場合を選ぶよこれでも。それにしてもプリン狂とは心外だな、事実だが」


場所は公園だった。公園の隅にある切り株型のテーブルと椅子を少女と死神、そしてマキちゃんが陣取っていた。
プリンの罠に引っかかって死神が少女に捕まり、道連れとしてマキちゃんがここにいる。


「しかし、手伝いとは」
「言ったでしょ!あの方に私の思いをつづった手紙を書く手伝い!」
「つまりラブレターか」
「そっそんなはっきり言わないでよ照れるでしょっ!ね、マキちゃん!」


少女が同意を求めると、いつもは戸惑いながらも頷いてくれるマキちゃんが今日は動かない。
少女は首をかしげた。


「マキちゃん?」
「……え?なっなな何何?!何の話?」


ビックと飛び上がったマキちゃんは確実に引きつった表情で早口にまくし立てた。
少女はますます首を傾げる。友達のこんな姿、あまり見ないからだ。


「どうしたのマキちゃん?おかしいよ今日は。公園に何かあるの?」
「多分、自分だと思うんだが」


死神の言葉に少々考え込んだ少女は、すぐに納得のいく表情になった。


「そっか!私はもう慣れちゃったけど、こいつ初めて見たら変の塊だものね!」
「うん」
「死神、あんた……自覚するのはいいと思うけど、あっさり頷くのもどうかと思うわ」
「そっそそそんな事無いよこの人がおかしいだなんて!それより手紙、手紙!」


明らかに様子のおかしいマキちゃんだが、少女はとりあえず本題に戻る事にした。
つまり、手紙を書くという作業に。


「さっ死神!あんたの意見ズバッと聞かせてちょうだい!」
「何で自分なんだい?」
「そりゃあ、あの方に一番近いじゃない!ちょうど使えるって思ったのよ!」
「手紙は自分で書くものだろう、人に聞いてどうにかなるものではないよ」


プリンを食べ終わった死神はだるそうにテーブルにあごを乗せる。
乗り気ではない死神に少女は頬を膨らませた。


「もーっ協力してくれてもいいじゃない!今日は特にだるそうだし!」
「手紙は苦手なんだ」
「何よそれ!手伝いぐらいしてくれてもいいじゃない!」


少女がテーブルをバンバン叩いても、死神は駄目駄目と言うだけだった。しまいには少女も頭を抱えてしまう。


「あーっ!じゃあどうやって書けばいいのよー!」
「自分で書けばいいじゃないか」
「それが思いつかないから困ってるんじゃない!」


困り果てる様子の少女を、マキちゃんも心配そうに見ていた。
そこに死神が声をあげた。……どこか楽しそうに。


「ん、そうだ、それなら助っ人を紹介してやろう」
「「助っ人?」」
「通り名は闇夜の愛のキューピッド、大人から子どもまでのあらゆる恋のエキスパートだ」


くるりと振り返った死神は、そこにあった木を見上げて言った。


「な、キュウちゃん」
「勝手に話作って嘘教えんなー!」
「「きゃー!」」


いきなりガサッと葉と葉の間から現れた吸血鬼キュウちゃんに、女子2人は悲鳴を上げた。
怯えるマキちゃんを庇って少女が強気に叫ぶ。


「こらーっ!変人仲間を呼ばないでよ!」
「へっ変人とはなんだ!俺はかっこいい吸血鬼だぞ!」
「変人じゃないの!」
「まあまあ落ち着いて。手紙が書けないぞ」


元凶の言葉だったが、とりあえず2人は落ち着いた。
木から降りたキュウちゃんは木陰に立つ。少女は座って再びペンを持つ。


「変人でもいっか。手紙の書き方教えてちょうだい」
「今のは嘘だからな!キューピッドとか呼ばれていないぞ!」
「そんなのどうでもいいから手伝ってよ!」
「らっラブレターを書く手伝いなんて、出来るわけないだろ!」


動揺するキュウちゃん。追い討ちをかけるように死神が笑う。


「キュウちゃんはラブレターも書けないほど恋に疎いわけだな」
「何を?!俺だってラブレターぐらい書けるぞ!」
「じゃあ手伝ってよね!」
「よし!……ん?何か騙されている気が……」


満足そうに見守る死神の目の前で、少女とキュウちゃんはあーだこーだと手紙を書き始めた。
時々遠慮がちにマキちゃんが口を挟む。そこへ、ふいに公園の入り口から声をかけられた。


「……すごく個性的で変人のメンバーで何やってるんだお前ら」
「お、友人」


友人はこちらに寄って来て、そして途中でハッと気が付いた。


「俺、これを無視してそのまま去ればよかった!しまったー!」
「こうなったら君も仲間に入れ」
「何の集会なんだよこれ」
「もう誰でもいいから手伝ってちょうだいー!」
「はあ?!」


無理矢理少女に引っ張られて友人も見事に巻き込まれてしまった。本当に少女は誰でもよくなったらしい。
はじめは渋っていた友人も、やけになったのか色々口出しし始めた。


「あのなあ、そんなに回りくどい事しなくても好きだって書けばいいじゃないか」
「それだけじゃ私のこの猛る想いが伝えきれないのよ!」
「じゃあ一体どんな事を書きたいんだ!」
「まず出だしから考えた方が……」
「え、ええーっと、皆、落ち着いて……」


言い合いする少女と友人に1人で地道に考えているキュウちゃんにそれをオロオロしながら眺めるマキちゃん。
そこにまた新たな仲間がやってきた。


「あ!そこで何しているんですか可愛いあなた!」
「キャンキャーン!」


体育会系男と白犬ココロだ。
少女に恋するこの男は少女が他の誰かに手紙を書いていることを知らずに覗き込んでくる。


「手紙書いてるんですか!」
「そうよ、皆で考えているの!あなたもどう?」
「喜んで!」


また騒ぎ出した皆を見て、死神の一言。


「これで果たして、ラブレターになるのだろうか」


しかしその言葉を聞く者は、足元で戸惑っているココロだけなのであった。





「ただいま」
「おかえり。どこ行ってたの?」


夕方帰ってきた死神に少年は居間から尋ねかけた。
死神は何も答えないまま少年に何かを差し出してくる。少年は無意識にそれを受け取った。
受け取ってから、それが可愛らしい封筒である事に気付く。


「……え?何これ?」
「手紙だ」
「いや、それは分かるんだけど。……誰から?」


まさか死神から?と一瞬思ったが、死神はキョトンとしている少年ににっこりと微笑みかけた。
どこか含みのある笑顔で。


「それは皆が力を合わせて書いた最高傑作の手紙だ。大事にしてくれ」
「へ?皆って……あっ待ってよ死神!皆って誰なのさ一体!」


それからしばらく少年は、怖くて中を見ることが出来なかったという。

とりあえず、それは少女のラブレターでは無くなってしまったらしい。

05/03/28




 

 

 





















いつのまにかこんなに増えてました。