友人は目を丸くして、少年の顔を見た。



   嘘つき



思わず箸で挟んだウインナーをポロリと落としてしまった友人の顔を見ながら、少年はやっぱりなあ、と思っていた。
自分だって、こんな話しを弁当の時間にいきなりされたら、固まってしまうだろう。


「よし、分かった、うん、今の話、もう一回してみろ、な?」


妙に早口でまくし立てる友人に、少年はさっきの話をもう一回言った。


「だから、前に話した死神がうちにいるんだってば」
「…嘘だろ」


嘘つき呼ばわりされた少年は、少々むっとして玉子焼きを口に入れた。


「本当だよ。この前家に帰ったら、ソファーに座って新聞を読んでたんだ」
「……あのなあ」


行儀悪く口の中でモグモグしながら言う少年に、友人は身を乗り出した。
そして、机越しにピッと箸の先を少年に突きつけてくる。


「前に知り合った死神が、家に帰ったら自分の部屋で普通に座って普通に新聞読んでましたって言われても、誰が信じるんだよ」
「本当の事だし」
「ただの夢ってやつじゃなかったのか?」


友人がハンバーグを一口サイズに箸で割っている間に、少年はお茶をゴクリと飲んだ。


「いや!外でも見たんだ、橋の上で」
「へえ」
「鎌を持ったまま全身黒尽くめで手すりに座って、足をブラブラさせながら空を見てたんだ」
「……」


友人はそのまま黙ったままハンバーグを飲み込むと、少年の肩をポン、と叩いてきた。
心なしか、その目には同情の光がちらついていたりする。


「お前、疲れてるんじゃないか?あ、強く頭を打ったとか」
「失礼だな。僕は正気だ」
「その死神、幻とかじゃないか?幻覚っていうやつさ」
「マボロシ…」


友人の言葉に、少年はハッとした。自分でも何だかひどくそんな気がしてくる。

それほど、死神という存在は、現実離れしていた。


「そうかも…」
「だろう?あ、もしかしたら風邪引いたんじゃないか?熱あるか?」
「…ちょっと待て」


熱があるか確かめるために伸ばしてきた手を払い除けて、少年は友人の目をハタと見つめながら言う。
頭の中には、橋の上で死神にあった日のことが思い浮かぶ。


「マボロシに影は出来るか?」
「うっ」
「…」
「……」
「それとも僕は嘘をついているのか?」


少年と友人は食事の手を止めて、まるで睨むかのように両方の目を見合った。

少なくとも、少年の目は本気である。
友人の方は、少々悩むように落ち着きの無い目だ。


「でもなあ…」
「本当なんだ、嘘なんて付いてない」
「信じたのは山々だけど…」
「友人が信じられないっていうのか?」
「…それ言われるとキツイなー」


一つ苦笑すると、友人は一気にご飯をかき込んだ。それを見て、少年も思い出したように箸を動かし始める。

しばらくそのまま黙々食べ続けていた2人だが、口の中の全てのものをゴクンと飲み込んだ友人が、何かを決意した目で少年を見た。


「よし、決めたぞ」
「え?」
「見てやるんだ」
「何を?」
「死神を、さ」
「ああ、なるほど」


納得した少年に、友人はにやりと笑って見せた。


「お前が嘘つきかどうか、この目で確かめてやる」
「そっちこそ、心の準備しといた方が良いぞ」
「よーし、放課後だ」


友人はそのまま、バコンと弁当の箱を閉めた。


放課後まで、あと2時間。

03/11/10




 

 

 














友人小説初登場。

04の「接触」に続きます。