学校の帰り道、橋の上で死神を見つけた。



   空



「おかえり」
「…ただいま」


上を見上げながらの死神の言葉に、少年は一応答えておいた。そして、すぐさま尋ねる。


「何してるの?」
「空を見ているのさ」


死神は手すりに腰を下ろして、足をブラブラさせながら答えた。
手には、いつも持ち歩いているのか、お馴染みの鎌。服も、いつもと同じ黒服だ。

死神が足をブラブラさせている所って、あまり見ないよな、と、少年は少し思った。


「こんな所で空を見ているの?」
「外じゃなきゃ、空は見えないじゃないか」
「そうか」


少年は、死神の隣へと歩いてきて、手すりに寄りかかった。カバンは、足元へ下ろす。


「やっぱり空は良いな。あそこの空も綺麗だった」
「あそこ?」


尋ね返して、少年はあっと気が付いた。死神はきっと、あそこの事を言ってるのだ。

少年と死神が出会った、あの丘の上。


「この空は、あそこの空とは少し違うな」
「そうだね、ここは都会だから」
「都会だと、違うのかい?」
「…やっぱり、空気とかが違うんじゃないかな」


少年は、橋の上から町を見渡した。

目に映るのは、人と、家と、車。

あそことは何もかもが違う。


「それじゃあ、不思議だな」


いきなり死神が、それこそ不思議な事を言い出した。


「何が?」
「この空が、さ」
「空?」


少年には、死神の言いたい事が分からなかった。


「空のどこが不思議なんだよ」
「空は、一つだろう?」
「それは…当たり前じゃないか」
「でも、見る場所によってこの空は、それぞれ違うじゃないか」
「えっ」
「ここの空とあそこの空は違う。でも同じ空だ。不思議だな」

「…」


そう言われると、少年も何だか空が不思議に思えてきた。
見上げる空は、だんだんとその色を青から赤へ、そして黒へと変えてきている。

空が、全く同じ表情をする時など、一度も無い。


「おお、同じ場所から見ていても同じじゃないな」
「…君の言う事は全部曖昧で訳が分からないのに、妙に納得してしまうよ」


少年は何故だか悔しい気分になって、少しむくれて見せた。死神は、そんな少年の様子を見て、声を上げて笑った。


「あはは、それは図星だからじゃないか?」
「…そうかも」


立ち上がって、手すりの上を歩き出した死神に、少年は足元のカバンを拾って少し小走りで死神の隣に追いつく。
そこでふと、少年が口を開いた。


「…死神も笑うんだな」
「それは偏見だ。誰だって笑うさ」
「そういうイメージが無かったよ」
「イメージで何でも決め付けるのは良くない。…まあ、イメージも大切なものだけどな」
「だろう?」
「君は、あまり頭が良くなさそうなイメージだ」
「…そ、それこそ偏見だよ!…たぶん…」


少年の前に影が出来る。死神の前にも影が出来る。


毎日違う空の下、今、同じ空を君と見ている。

03/11/9




 

 

 















空はいいです。