あれから何日か立ったある日、僕はもう一度死神に出会った。



   はじまり




「やあ」


死神は、普通にそこに座っていた。そして、普通に僕へ挨拶してきた。


「…」
「挨拶されたら、挨拶し返すのが礼儀だろう?」
「…やあ…」
「よし」


満足そうに頷く死神が座っているのは、どこにでもある普通のソファー。
隣には、とても大きい鎌が立てかけられている。

普通にそこにいる死神に、しかし僕は尋ねられずにはいられなかった。


「ねえ、何でここにいるの?」
「何でって」
「ここは、僕の家のはずだけど…」


そう、確かにここは僕の家だ。ちなみに、僕の家の僕の部屋だ。
さっき、学校から帰ってきたばかりなのだ。なのに、どうしてここに別れたはずの死神がいるのだろう。


「確か、帰るって言ってたよね」
「ああ、帰ったよ」
「で?」
「またこっちに来たんだ。見てない所とかあったし。…ついでにここの家に」
「何で?」
「ここに、来たかったからじゃないかな」
「…」


この死神から、はっきりとした答えなんて聞けないだろうとは思ってたけど。


「それじゃ、これからどうするの?」
「そうだな」


死神は、少し考えるそぶりを見せてから、こっちに顔を向けてきた。


「とりあえず、夕飯は何かな?」
「…」


少年は考えた。今、死神がどんなつもりでうちの夕飯の事を聞いてきたのかを。
考えて、そして思いついた事は…。

あまり、信じられるものではなかった。


「まさか」
「ん?」
「うちに居座る気じゃ…」
「はっはっは」


軽々しく笑って見せた死神は、そのまま真剣な顔で言ってきた。


「元よりそのつもりだ」
「ちょっと待てっ!」
「大丈夫。寝る場所は自分で確保するから」
「そういう問題じゃ…」
「ここにいてはいけない理由が、あるのかい?」


死神のその問いかけに、僕は言葉を止めた。

いや、理由とかは死ぬほどあるような気がする。
しかし、それを言葉に出そうとすると、何も出てこないのだ。

死神は、ただこっちを見ているだけ。


「…何も出てこない…」
「だろう?」
「でも納得がいかないだろ?!」
「ほう、どんな事が?」
「う……でも…一体何で、僕の家なんかに…」
「そんな細かい事をいちいち気にしてなんかいたら、日が暮れてしまうよ」


僕の言葉を遮って、死神が早口で捲くし立てる。そして、いつの間に手に入れたのか、新聞をバサリと広げて読み始めた。
新聞を読む死神、というのも、なかなか見れない光景だろうな。


勝手に家に入り込んで、その上居座ろうとかするなんて、とても理不尽な話だ。
僕はこの死神に、正当に抗議する権利がある(と思う)

そう、思うのだけれど…

何というか…


「ああ、そうだ、言い忘れてた」


ふいに、死神が新聞から顔を上げて、僕のほうを見た。


「おかえり」
「…ただいま」


死神と一緒っていうのも、悪くないかな、とか思ってしまったわけで。



これが、僕と死神の奇妙な毎日の、はじまり。

03/11/8



 

 














「あの頃の空」その後小説。はじまりはじまり。