だって、一緒に暮らしてるんだもの。



   マグカップ



うちにはマグカップが3個あった。お母さんの分、お父さんの分、そして僕の分だ。


僕はこのマグカップに入れたココアを飲むのが好きだ。


朝、お母さんが入れてくれるのも、学校から帰ってきたときのものも、夜寝る前のものも、全部好きだ。


たまに他のジュースとか入れるけど、つまり僕はよくこのマグカップを使っている。



お母さんのマグカップは赤色で、お父さんのマグカップは青色、僕のマグカップは黄色だ。


3つが戸棚に並んでいると、カラフルで何だか嬉しくなる。


僕はマグカップで何かを飲むのも好きだけど、それ以前にこのマグカップが好きなのだ。




しかし近頃はそのマグカップの戸棚に変化が訪れた。死神がやってきたからだ。


自分でココアを飲むついでに、死神にも出してやろうとしてハッとしたのだ。


僕はココアを飲む時いつもマグカップを使っているけど、死神のマグカップは無い。


あと2個あるけど、これはお父さんお母さんのものだ。



仕方ないから、その時はガラスのコップにココアを入れてやった。


美味いとか言いながら死神はココアを飲んでいたけど、僕はあの冷たい感じのするガラスが頭から離れなかった。




その後、ちょうど暇な休みがやってきた。ちょうどいい機会だから、僕は死神に言った。ちょっと買い物してくるから待ってて。


すると死神は興味津々に言ってきた。それじゃあ自分も連れて行ってくれ。


別に断る理由も無かったから、僕は死神と一緒にデパートにやってきた。



僕はすぐにはぐれそうになる死神を引っ張って、食器売り場までまっすぐ歩く。


そこには、いろんなマグカップが並んでいた。まさかこんなにあるとは。


死神にどれがいいか聞いてみると、少し悩んだ後これ、と指差した。それは凄く真っ黒なマグカップだった。


凄い地味なマグカップだね。僕がそうやって言うと、死神は自慢げに胸を張った。自分は黒が好きだからな。


ふーんと言って僕はその黒いマグカップを手に取った。本人がこれがいいって言うなら、これでいいだろう。



すぐレジに持っていって、すぐデパートを出た。死神が、買うのはこれだけかい?とか聞いてきた。


これを買いに来ただけだったから、僕は頷いておいた。




寄り道せずに家に帰ると、僕はすぐにマグカップを袋から取り出した。


ソファに座る死神にココアを入れようか聞いたら、嬉しそうに頼むと言った。



黒いマグカップを少しすすいだ後、戸棚から黄色いマグカップを取り出す。


すぐに飲めるように、出かける前にココアをつくっておいてよかった。


2人分のマグカップにココアを入れると、両手に持って死神の所へと歩いていった。



はい、と黒いマグカップを差し出せば、死神は驚いたようだ。何だい?とか聞いてくる。


ココア、死神の分、とか言うと、死神はもっと驚いたように固まった。


時々死神もこうやって驚く時がある。だけどそんな時は決まって、僕には何に驚いているのかが分からない。


死神が固まったまま動かないので、僕は黒いマグカップを死神に押し付けてソファに座った。



しばらくマグカップをじっと眺めていた死神が、何故、と言ってきた。


僕はココアを一口飲んでから、普通に答えた。だって死神がそれがいいって言ったんじゃないか。


すると死神はしばらく、そうじゃなくてとかだからなんでこれをとかブツブツ呟いていた。何か不満でもあるのだろうか。


ココアを飲みながら何かに苦悩する死神を眺めていると、自己解決したのかよしっと顔を上げて僕の方へ向き直ってきた。



ありがとう。



死神が笑いながらそう言うから、僕も笑って返した。



どういたしまして。



それからあの棚には、4つのマグカップが並んでいる。赤色と青色と黄色と、黒色のマグカップだ。


黒って何だか陰気臭いイメージがあったんだけど、こう見ると結構いいかもしれない。




僕のうちの棚には今日も、4つの色が綺麗に並んでいる。

04/07/13




 

 

 




















少年も死神もココアが好きです。