大切なものはいつもそこにある。



   大切



「これは何だ?」


死神の問いに、少年はうんざりという様にため息をついた。死神がこうやって尋ねてくるのはいつもの事だが、今日は多すぎる。


「死神……今の言葉何回目だと思う?」
「数えていなかったな」
「僕も10回目からしばらく数えて無かったよ」
「むう……」


死神は黙り込んでしまった。自分でもさすがに質問しすぎたかと思ったようだ。
それを見て少年は、ずっと曲げていた腰をぐーんと伸ばした。


「あーっ……でもまあ、今日は仕方ないかな……」
「大体これは……」


と、死神も立ち上がって周りをピッと指差す。


「散らかりすぎだと思うんだが」
「……さすがに反論できない……」


少年は、非常に散らかったこの狭い部屋を見て苦笑する事しかできなかった。

ここは、家の角にある倉庫。ちょっと片付けてと頼まれて、少年は暇そうにゴロゴロしていた死神を連れて掃除をしている所だった。
しかし中は予想以上の散らかりようで…。さらに色んな珍しいものがあるので死神が「これは何だ何だ」としょっちゅう聞いてくる。
おかげで掃除はちっともはかどっていなかった。


「ところでさっきは何を尋ねてきたのさ」
「おお、これだ、これ」


改めて問うと、死神は1つの箱を見せてきた。やけに汚い箱だ。


「……何これ」
「中にはまた変わったものが入っているぞ」
「え?」


ふたを開けてみると、中に入っていたものは…確かに変わったものだった。
色んな形をした、ただの石ばかり詰め込まれていたのだ。


「……ますます何これ」
「君も分からないか」
「何で石ばっかり入ってるんだろう……」


少年が首をかしげていると、箱をじっと観察していた死神がちょいちょいと手招きしてきた。


「?何?」
「もしかしたら、これは君のものかもしれないぞ」
「は?」


少年が間の抜けた声を出すと、死神はほらっと箱のある部分を指した。
そこには、何だか読めない字がクレヨンで書かれている。


「これ……昔僕が集めたのかな……」
「覚えていないか」
「まったく。石集めるなんて、何考えたんだろう僕は」


少年は心底昔の自分がわからなかった。こんなただの石、集めても何にもならないだろうに。
しかもかろうじて読める文字は『たからもの』と読めた。


「宝物って……この石が宝物?」
「うむ、確かにどの石も綺麗だな」


死神の言う通り、そこら辺に転がっている石よりは綺麗に見える。しかし、石は石。宝石でもなんでもないただの石なのだ。
とても宝物と呼べるものではない。


「子どもの考える事は分かんないなー」
「君だってまだまだ子どもだろう」
「ちっ違うよ!これもっと子どもの頃のだし!」
「しかし、大切なものとは全てそういうものかもしれないな」


えっと少年は不思議顔。また死神が複雑な事を言い始めた。


「大切なものとは人それぞれだ。例えば君が大切だと思うものは、他人から見ればどうでもいいようなものかもしれない」
「そんなもんかな……」
「そんなもんさ。自分はこの鎌がとても大切なものと思っているが」


と、死神は側に立てかけていた鎌を持った。


「君にとってはただの邪魔なものだ」
「……確かに……」
「それと同じさ。昔の君にとって、これはとても大切なものだったんだろう」


少年は改めて箱に入った石を見つめた。幼い頃、自分はどんな思いでこの石をこの箱に詰めたのだろうか。
その時の少年にとって、この石は何よりも大切なものだったに違いない。


「重要なのはその大切な「もの」そのものではない。それを大事に思う心さ」
「……何だかすごく恥ずかしい台詞だなー死神」
「そうか?」


平然と死神は首をかしげた。こういう奴なのだ死神は。

少年は、大切そうに箱を棚へとしまうと、倉庫の掃除を再開したのであった。

04/1/28




 

 

 



















誰だって何かを集める時期があるのです。