ほろ、ほろ、ほろ、心の涙はいつまでも止まりませんでした。



   涙



「うわぁーん!」


1人の少女が周りをはばかる事無く豪快に泣いていた。
原因は失恋。憧れていた先輩についさっき思い切って告白してきたのだが見事玉砕。
友達の制止の声を振り切ってこの公園まで走ってきたのだった。
公園には勿論いろんな人々がいたのだが、そのあまりにも大きな泣き声にいつの間にか人が減っている。


「何で、何でみんな彼女持ってるのよ、ひどいわーっ」


どうやら先輩はすでに相手がいたらしい。この様子だと以前にも同じような事で振られている様である。
とりあえず少女は、その悲しみを外に出しまくっていた。
と、その時。


「ふえ、ふええーん」
「……あの……」
「ふえ?」


背後からとても戸惑ったように声をかけられて、少女はベソをかきながら振り返った。
そこにいたのは、戸惑ったような顔をした1人の少年。ちなみにその隣には一匹の黒猫が立っている。


「一体何でそんなに泣いてるの?」
「うっうっ……良いじゃないどんな理由で泣いてたって!」
「いやーその……泣き声がちょっとうるさ……いや気になったから、負けた方が調べにいくって事で死神にじゃんけんで負けたんだけど……」


訳の分からない事をボソボソ呟く少年を、少女は八つ当たりするようにキッと睨みつけた。


「じゃあ私はこの失恋の悲しみをどこで晴らせばいいのよ!」
「………」
「って言っちゃったじゃないバカー!」


うわーんとまた泣き出した少女に、少女は困りきっていた。


「どうしよう……」
「にゃーん」
「ん?」


ふとコバが公園の外を向いて鳴き出した。何だろうと思ってそちらを向くと…。

黒ずくめの服装でにこやかに手を振る鎌を持った怪しい男が。


「あの野郎……」
「にゃあ」


わざとこちらに近づかない死神に、少年は少し殺意を覚えた。
と、死神が何かを伝えようとジェスチャーをし始める。


「何?」
『な・ぐ・さ・め・ろ』


口の動きで、少年は何とかそのメッセージを受け取った。
しかしそれだけじゃ何が言いたいのかやっぱり分からなかったので、そっと少年は死神に近づいた。


「慰めろって……一体どうやってだよ!」
「よし、こう言ってみるといい。前にドラマで見た」
「ドラマって……」


死神のアドバイスをもらった少年は、不安が残るがとりあえず少女の元へ戻った。
話しかけたからにはもうほっとけないというかそのまま去ったらバツが悪いというものである。


「あ、あのさ」
「あうっあうっ……あう?」
「その……失恋の相手がどんな人かは知らないけどさ……」
「………」
「君を振るような奴なんかのために涙を流しちゃ……もったいないよ」
「……っ!!」
「………」


少年と少女、見つめ合うこと暫し。


「……え、っと、そ、それじゃ元気出して頑張ってね、は、ははは」


非常に恥ずかしくなった少年はカーッと赤くなりながら早足でその場を立ち去った。
その後に、コバも急いでついて行く。


「っあー恥ずかしかった!予想以上に恥ずかしかったよ今!」
「あははは。まさか本当に言うとはな」
「……死神覚えてろ……!」
「ニャー」


そんな会話を右から左に流しながら、少女はしばらくその場に固まっていた。
すると、すっかり人気の無くなった公園へ誰かが走って入ってきた。少女の友達だ。


「あ、いた!いきなり走り出すからびっくりしたじゃん!……大丈夫?」


友達はてっきり少女がまだ失恋の痛みから立ち直っていないものだろうと思っていた。
が、少女は手を胸の前で合わせて、恍惚とした表情で呟いたのだった。


「……どっきり胸キュン……!」
「……は?」
「マキちゃん、私、新しい恋に目覚めちゃった……!」
「え、もう?!」


友達マキちゃんが驚く中、少女はガバッと立ち上がった。
その顔は今まで泣き喚いていた失恋少女のそれではなく、カンペキな恋する乙女そのものだった。


「まだ名前も家も人柄も知らないけど、きっとあの方が私の運命の人よ……!」
「ちょっ……それまだ何も知らない事ばっかりじゃない!少し落ち着きなさいよー」
「落ち着いてなんかいられないわよ!よーし、新しい恋にまた頑張るわよー!」
「……はあ……」


いつもながら少女の立ち直りの早さにはついていけないが、少女が笑顔になってよかったと、マキちゃんも笑うのだった。


恋は、心の涙すべてを消していってしまいました。

03/12/11




 

 

 


















少女(とその友達マキちゃん)の登場。少年の受難の始まり。