あれは、本当に効果があるのだろうか。
ペットボトル
少年はあまり見たくないものを見てしまった。死神だ。
別に死神自体は毎日見てるから良いのだが、問題はその姿だ。
何だって、こんな道の端っこで座り込んでいるのだろうか。
「死神……一体何やってるのさ……」
「少し気になるものがあってな」
背後から問いかけると振り返りもせずに死神が答えた。
最初は気がつかなかったが、死神の隣には黒猫のコバもいた。
「散歩中?」
「うむ。その途中でこれを見かけてな」
「にゃあ」
これ、と死神が指差すのは、水が入った1本のペットボトル。ある家の角の方に置かれている。
「何のために置いてあるのか分からない」
「……ああ、あれじゃないかな」
「ほう、知ってるのか」
「うん。前に流行った猫よけだよ」
猫よけと聞いた瞬間、死神の肩がピクリと揺れた。
「猫よけ……」
「うん」
「コバッ、大丈夫か?!」
死神がガバッと尋ねると、コバはきょとんとした顔で首をかしげた。
「にゃー?」
「……よかった、大丈夫そうだ」
「にゃあー」
「一体どんな想像したんだよ死神……」
ふうと安心したように一息つくと、死神は改めてペットボトルを見つめた。
「しかし、何でこれが猫よけなんだ?」
「さあ……」
「中の液体が特別なものなのか?」
「いや、普通に水だと思う」
少年がそう答えると、死神はふむ、と考え込んでしまった。
こうなったら死神は自分で納得のいく答えが出るまでずっとこの調子だろう。
少年は、そのペットボトルについてえーっとと思い出した。
「中の水の光が猫にとって効くとか何とか聞いたけど……」
友人から聞いた話なので本当かどうかは分からないが。
すると、死神が傍らに座っているコバに尋ねだした。
「コバ、あれを見てどうにかなるか?」
「ニャア」
「……全然大丈夫そうだが」
「効く猫と効かない猫でもいるんじゃない……?」
言い忘れたが少年は今お使いの帰り道だ。そろそろ帰りたいと思っている。
「そうか分かったぞ」
「何が?」
「コバの目が金色だからだ。光はきっと効かないんだこの目は」
「ええー?」
確かにコバの綺麗な金目は光を跳ね返しそうな勢いだが。
「しかし猫をよけるとはけしからんな」
「ニャー」
「仕方ないよ。その家の事情とかあるんだし」
少年は憤慨する死神と猫をなだめる。
「庭先に魚でもつるしているのか?」
「いや……それは無いと思うけど……。猫嫌いとか?」
「何だ、こんなに愛くるしいというのに、なあ?」
「ニャア」
まだ心が落ち着かないらしい死神に、少年はため息をついた。
「良いじゃないか、うちにはペットボトルは置いて無いんだから」
その言葉に、死神は少年を見つめた。コバも少年を見つめているように見える。
「……。そうだな、うちに帰れれば良いんだ」
「そうだよ。だから良いだろ?」
「ああ、それで良い」
どうやら満足したらしい死神はくるりと体の向きを変えた。帰る気になったんだな、と少年は悟った。
「今日の夕飯は何かな」
「この材料からするとチャーハンだな」
「そうか…。あの緑色のコロコロしているものはどうも苦手だな」
「グリンピースが?意外だな……」
コバはちらっと後ろを振り返った。
夕日に照らされたペットボトルの中身が、チカチカとコバの金色の目に反射する。
それら全てに背を向けて、一匹の黒猫はあーだこーだと好き嫌いについて論議している2人分の影へと溶け込んでいったのだった。
03/12/6