出会い 「箱だよ!全員集合!」 前編



僕はあらし。こう見えても普通の人間だ。平凡で特別なところは何もない。疑いようの無い凡人だ。
僕はついこの前までは気ままな一人旅をしていた。それが、いつの間にか3人旅になって4人旅になって5人旅になっている。いや、人と呼んでもいいものだろうか……。
悪魔と天使と人魚に続いて旅の仲間になったのは、本物のオオカミ女だった。


オオカミ女の名は華蓮。世の中をもっと知るために群れから出てきたらしい。
はっきり言って口が悪い。本人無意識なのか自覚して言っているのか聞いてみると、
「私の言葉がキツイのは承知してます。だからこうやって敬語を使っているんですがねえ」
との事。心がけは良いと思うが、敬語でも結局言う事キツイので意味が無いというか余計マイナスになっていたりする。
性格もやっぱり多少キツく、小型拳銃を武器に持っている。あと足がやけに速い。

満月を見るとオオカミに変身してしまうというまさにオオカミ女の華蓮。
普段は普通の人間の姿なので、日常に支障はなさそうだ。


とりあえず僕らは今、森の中をあてもなく歩いている状態だった。


「お腹空いたーペコペコーお腹と背中がくっつきそうー」


さっきからシロがうるさい。まあ気持ちは分からないものでもない。
ウミ助けて町から出てこうやって華蓮に会って、と、昼から何も食べてないんだから。
こっちもいい加減お腹がすいてきた。


「シロさん、お腹空いたんですか?」


華蓮がシロに話しかけた。お?何か食べ物でも持ってるのか?


「空いたー!」
「我慢しなさい」


うわ期待させといてひでぇ!


「でもよー、こうちまちまと歩いてるのってだるくねえか?」


クロが「私は今すごくだるいです」と言わんばかりな顔で言ってきた。


「じゃあどうやって移動しろっていうんだよ」
「川を泳ぐか?」
「冗談じゃありませんよ、あなただけ泳いでて下さい」
「ううっ……」
「だからよ、何か乗り物手に入れよーぜ!」


乗り物!なるほど……たまにはまともな提案をするんだなクロでも。
いや、しかしそれには色々問題がある。


「お金は」
「うっ!」
「乗り物を手に入れるにはそれなりのお金が必要なんだよ」
「あらしはお金持って無いのー?」
「いや持ってるけどさ、乗り物っていやあ高いんだよ。だから無理無理」
「じゃあお金のかからない乗り物だったら良いんですね?」


華蓮が何か意味ありげな笑みで言ってきた。今はオオカミじゃないけど、その笑顔はちょっと怖い。


「まあ、お金がかからないんなら文句無いけど……」
「だったら……作れば良いんですよ。乗り物」


買えないなら作る。それはとても単純な発想だけど……乗り物だよ?作れるのか?





と僕は思っていたんだけど、どうやら皆本気のようだった。


「おりゃあー!ぬおおー!どりぃやああー!」


さっきからクロがあのぐんぐにるとかいう三つまたのヤリで一本の木にブスブス刺しまくってる。
木を切り倒そうとしてるみたいだけど……かなり根気のいりそうな作業だ。


「頑張ってくださいよ、木を手に入れなきゃ何も出来ないんですから」
「そう思うならお前も手伝えよ!」
「だって何も道具が無いんですから、手伝いたくても出来ませんよ。あってもやりませんけど」
「このアマ……」


僕が思うに、シロがかじったらすぐに木は倒れるんじゃないだろうか。
……あ、木を全部食べちゃうから意味無いか。


「まったく倒れる様子は無いな」


横で体育座りしてるウミが率直な感想を述べる。まったくその通りで、木には穴が開いていくだけだ。
流れる汗を腕で拭いながらクロははーっとため息をついた。


「あーっせめて斧とか……剣とかでもいいから刃物類がありゃあなぁ。……まてよ?刃物?」


クロがそう言うのと同時に、全員がバッと僕のほうに顔を向けてきた。
な、何何?


「そうだ、そうだ、刃物あったじゃねーか」
「思いつかなかったわー」
「は?刃物って……どこにあるんだよ?」
「え、無自覚なんですかあれ?」
「らしいんだ」


4人で訳の分からない事を話し合っている。刃物って一体どういうことだ?


「でもその刃物ってどうやって出すんですか」
「そりゃあお前、あれしかねーだろうよ」
「えー怖いよー」
「こうなったら死ぬ気でいくか……」


どうやら話がまとまったようで、全員決意を固めた顔をしてこっちに向き直ってきた。
……なんであんなに緊張した面持ちなんだろう……。


「よーっしいくぞ野郎ども!」
「「おおっ!」」
「せぇーの!」


掛け声をかけた4人は、次の瞬間一気に声を張り上げた。


「こんのすぐキレ人間めー!」
「なっ?!」
「スカポンターン!」
「ケチケチチビ助!」
「腐った外道人!」


いきなり何故こんなに罵られなければいけないんだ?!むっかーっ!
僕の頭はまたもや真っ白になった。


「そこになおれてめえらー!」
「きたー!」
「森の中へ逃げ込めー!」
「きゃーっ!」


あと記憶に残ったのは、何やらスパンと小気味良い音と何かがドスンドスンと倒れる音だけだった。



そして気がついたら、周りには何本かの木が累々と倒れてて、その中心に僕が立っている、という状態だった。


「……あれ?」
「よっしゃー作戦成功ー!」


がさっと近くの茂みからクロが顔を出した。
何だか分からないけど……つ、使われたーっ!訳が分からないが猛烈にくやしいー!


「これで材料は揃いましたね」
「ありがとあらしー!」
「しかし恐ろしい切れ味だなあのでっかい包丁みたいなものは……」


次々と皆がぞろぞろ出てくる。うう……今回はしてやられたらしい。


「くそー……材料手に入れたんならとにかく作れよ!」
「へっへー、悔しいんだろー?」
「うっさい!さっさと作れ!」
「この木をどうすればいいんだ?」
「えーっとまずそこの木をこれくらいに切ってですねー……」


巧みな華蓮の支持によって、クロが今度は自分でちゃんとぶすぶす切っている。
ちょっとずつだからぐんぐにるでも切れるみたいだ。
すると、いつの間にかどこかに消えていたウミが戻ってきた。


「どこ行ってたんだウミ?」
「ちょっと近くの川まで。水を手に入れに行ってたんだ」
「タルがあるじゃないのよー」
「タルのは水分補給用だからダメなんだ」


意外にこだわるな、押しが弱いくせに……。でも何で水を手に入れに行ってたんだ?


「実は、人魚は少々の水は自由自在に操れるんだ」
「え、何かかっこいいな」
「だろう?で、その少々の水を使ってナイフを作ってみた」


そう言うウミの手の中には……おおお、水で作られたように見える小ぶりのナイフが!
本当に水を操れるらしい。すげえ人魚!


「そんなの出来るなら最初から出して下さいよ」
「疲れるんだよこれすると。だからこうやって細かい作業に入るまで取っておこうと」
「へっ、軟弱魚が」
「何だとおい」
「喧嘩はやめてよー食べるわよー?」
「「すいません」」


何気にシロって強いよなあ……。まあとりあえずこれで作業がはかどる事間違いなし。
僕がぼーっと見ている中で、木はどんどんと形を変えていくのだった。

……本当に何か乗り物が出来るんだろうか……。


後編に続く

04/1/18



 

 

 













皆で仲良く箱作り前編でした。