出会い 「箱だよ!全員集合!」 後編



 ○前回のあらすじ
   歩くのがめんどいので乗り物を作る事にした。



「うおぉーしっ!切ったぞー!」


クロが空に向かって吼えた。その横ではぐったりとウミが倒れている。
そう、今まで2人はずっと木を切っていたのだ。あーあ、可哀相に……疲れまくってるだろうなあ……。
すると華蓮は、満足そうに頷いてみせた。


「よし、材料は集まりましたね」
「これでどうするのー?」
「ええ、あとは組み立てるだけなんですが、1つ問題があるんですよ」
「「問題?」」


僕らが口を揃えると、華蓮はキッパリとこう言った。


「そう……それは、釘とトンカチが無いことです!」
「「!!」」
「ってそれじゃ木切っても意味ねえじゃんか!おい!」
「俺たちの今までの苦労は……」


クロとウミがブーブー文句を言うと、華蓮は何故か得意げに笑いながら答えた。


「無ければ、買えばいいんです」
「「は?」」
「釘とトンカチぐらいなら買えるでしょう。この近くにある町で買ってきて下さい」
「誰が?」
「それは……」


そこで皆の視線が何もしていなかったシロと、そして僕に向けられる。
……え、僕も?


「町って……どれぐらい先にあるのさ?」
「近いですよ。歩いて30分ほどでしょうか」
「「近っ!」」


そんなに近いならノコギリとかも町で買えばよかったんじゃ……。まあ、終わった事はあっちに置いておこう。
30分の道のりなら暇だったし、別に行ってもいいかな。


「じゃあ、僕が行くよ」
「あっあたしも行くー!」


シロが自主的に立ち上がってきた。シロも場の空気を読んだのか?
華蓮は満足そうに笑っている。やはり僕らに行かせるつもりだったらしい。


「それじゃあよろしくお願いしますね」
「なるべく早めに帰ってこいよ」
「よーし、待ってる間は何して遊ぶか?!喧嘩か?!」
「喧嘩は遊びなのか?!」


さっそく騒ぎ始めた3人に背を向けて、僕はシロと共に町へと歩き出したのだった。
本当に30分でつけると良いけど。





30分後、僕らはちょうど町の前へと来る事が出来た。すごいな華蓮。


「えーっと、釘とトンカチって……」
「ねーねーあらしー!」


僕が辺りを見回していると、シロが目をキラキラさせて言ってきた。
……ああ、シロが考えてる事が手に取るように分かるよ……。


「何か美味しいもの買ってー!」
「やっぱり……」


やけに積極的だと思ったら……最初からこのつもりでついてきたんだなこいつ。
でも確かに相当腹減ってる様子だし、皆にも買っていってやろうかな。


「じゃあ何がいい?」
「え、買ってくれるのー?!じゃあね、じゃあねー!」


シロは随分と迷ってるようだ。こんなに考え込む事は食べ物以外に無いんじゃないだろうか。
その間に僕は釘とトンカチを探す事にした。
シロを見守りながら歩いていると……おお、ちょうど工具店みたいな所を発見。


「シロ、ちょっとここに入ってるからね」
「分かったわー」


シロはこっちを見ずに返事をする。ちょっと気になるけど……大丈夫だろう。迷子になる歳じゃないだろうし。多分。
工具店の中に入ると結構な量の工具がいっぱい並べてあった。


「うわー……一体どれ買えばいいんだろう……」


僕は工具を選ぶのに夢中で、シロの事はさっぱり忘れてしまっていた。
そう、工具店を出るまですっかり忘れていたのだ。

気がついたときには、あの真っ白な少女はどこにも見当たらなくなってしまっていた。うわーどうしようー!
くそー、シロを舐めていた。嫌な予感してたけど本当に迷子になっちゃった……。


「シロー!どこだシロー!」


僕は大声で叫びながら町の中を走り回った。……いや、これは本当に恥ずかしい……。
何といっても名前だ。まるではぐれたペットの犬か何かを探してるみたいじゃないかこれじゃ。
しかしシロが余計な事(町人にかぶりつくとか)をしないうちに早く見つけないと。

それから何分かしないうちに、シロを発見する事が出来た。
よし、まだ犠牲者も出ていないな。間に合ってよかった。


「シロ!」
「あっあらしー!どこ行ってたのよー!」


シロは半べそで走り寄ってきた。あっちも僕を探してたらしい。だからここに入ってるっていったのに……。


「もう先に帰っちゃったかと思っちゃったじゃないのよー!」
「ごめんごめん。ほら、好きなもの買ってあげるから」
「いいのー?!」


とたんにシロはにこぉと笑顔に。……何だか騙された気が非常にするんだけど……。
まあこう言ってしまったからには買ってやらなければなるまい。
はあ……まるでお父さんにでもなった気分だ。せめて兄がいい……。


「あのねー!これとこれとこれとあとあれもそれも!」
「出来るなら3つまでが良いんだけどなあシロ……ん?」


その時、僕の目にふと見慣れぬものが映った。そこは、乗り物屋らしい。色んな形の乗り物が並んでいる。
その中に、何だかでっかい三輪車があったのだ。


「うわー……こんなでっかい三輪車もあるんだなー……」
「大人用ってやつじゃないのー?」


シロも物珍しそうに見つめる。普通三輪車って子供用とか聞くけど、バランス取れるし大人用三輪車も便利かもしれない。
しかも最新式とかでソーラーエネルギーを使う電動三輪車らしい。うわー、何だかよくわかんないけどカッコいいなぁ。


「……っと、こんな事してる場合じゃなかった。早く買って帰らなきゃ」
「そうよー!早く買って食べましょうよー!」


という事で、僕はあれこれと注文してくるシロに付き合いながら乗り物屋を後にしたのだった。




「おおーい!おっせーぞお前ら!こっちは待ちくたびれて5回戦もやっちまったじゃねーか!」
「そうですよ。もう少し遅かったら武器も使用可になる所だったんですから」
「……死ぬ……」


僕とシロが帰ってくると、クロと華蓮がブーブー文句を言ってきた。何故かウミは疲れきったように倒れているけど。
……まさか、ずっと喧嘩という名の遊びをしていたんじゃ……。


「ねーねー、誰が勝ったのー?」
「勝ったというか、ウミさんが全戦全敗って感じですね」


うわー可哀相にウミ。というかクロは良いんだけど、武器使用不可の状態で勝ってしまった華蓮が何だか怖い。


「何か良い匂いがするんだけど、何か買ってきたのかおい?」
「ああ、皆お腹空いてるだろうと思って食べ物買ってきたんだ」
「気が利いてるじゃないですか」


僕が地面に食べ物の入った袋を置くと、クロと華蓮とシロが群がってきた。


「ってシロ、お前の分はちゃんと買っただろう!」
「えー!あれじゃ足りないわよー!」


おかしい、通常の1.5倍は買ってあげたはずなんだけど。うーん、天使の胃袋は恐ろしい……。
と、そこにウミがズリズリ這いながら近寄ってきた。見れば見るほど可哀相に思えてくる。


「ううっ……ところで工具は買えたのか?」
「ああ、それならこっちに」
「じゃあさっそく作らなければなりませんね」


華蓮がモグモグしながら言う。ああ、早くしないと全部食べられちゃうよウミ。


「よっし!これ食い終わったら作ろうぜ!」
「あたしも手伝うわー!」


クロもシロもむしゃむしゃしながらガッツポーズを作る。ああ、本気でもう無くなっちゃうよ。
……あれ?そういえば僕もまだ何も食べてなかった気が。


「っあー!ちょっと待て!僕も全然食べてないんだからな!」
「俺はまったく何も食べてないぞ……!」
「あれ、そうだったんですか?」
「それならそうと早く言えよ。もうほとんど食っちまったじゃねーか」
「うおおおっ……」


ウミが崩れ落ちる。ああ、ここに来る途中シロみたいに食べてれば良かった……。




という事で、組み立てるのは飯にありつけなかった僕とウミを除いたメンバーでやる事になった。
それでも腹は膨れないんだけどね……。


「えーっと、ここに釘を打って下さい」
「よっしゃ!」
「シロさんはクロさんに釘を渡してあげて下さいね」
「わかったわー!」


さすが華蓮。危なっかしいシロを見事に除けたぞ。
カンカントントン、と、辺りに規則正しい音が鳴り響き始める。

トントンガツッ。


「ってええぇー!」
「やると思った……」


こういう作業にはお約束のようにこれがある。すなわち、トンカチで指打ち。クロもやっちゃったらしい。


「それぐらいでめげないで下さい!さあファイト!」
「おめえもちっとは手伝えよ!」
「嫌ですよ。怪我したらどうするんですか」
「今さっきオレが怪我したばっかりだろ!ココ!危険はオレもお前も同じだ!」
「これじゃあいつ終わるか分からないな……」


ボソッと体育座りのウミ。僕もちょうどそう思ってた所だった。
仕方ない……。腹は減ってるけど、ここでボーっと見てるのもアレだしな。
僕は立ち上がってギャーギャー騒ぐクロと華蓮の元へ歩いた。


「よし、皆で作ろう。そうすれば文句ないだろ?」
「おおあらしナイスアイディアっ!」
「そう言ってくれると思ってましたよ」
「まさか待ってたなんてこと……いや、何でもない」


面倒臭そうにウミもやってくる。それを見て、シロが嬉しそうな声を上げた。


「皆の乗り物だものねー!皆で作らなきゃー!」


そうだ、皆で作るんだ。皆で作ればきっと良いものが出来るに違いない。



こうして、僕らの乗り物『箱』は、作られたのだった。って結局箱じゃん……車輪が付いただけの……。

まあ、贅沢は言えない、か……。これも仕方ないだろう。皆で作ったものなんだから。


「出来たー!」
「わーいわーい!」
「長かった……」


僕らは満足そうに箱を眺めた。見た目はすんごい不恰好だけど、これでも結構頑丈、だと思う。
もう本当贅沢は言ってられないし。


「……で、この乗り物を一体どうするんだ?」


尋ねてくるウミに、全員が思わず黙り込んだ。
そういえば……乗り物は乗り物だけど、これでスピード速くなる訳でもない。
つまり……。


「これじゃあ……ただの邪魔な箱だよね……」


僕の言葉に、全員がガクーンとうなだれた。あっ言ってはいけない事を言ってしまった!
せめて引くものさえあれば良いんだけど、無いものは無い。


「……せっかく作ったんだし、もって行きましょうよー」


シロが名残惜しそうに言う。確かにもったいない。今までの苦労がもったいない。
すると全員が同じ意見だったようだ。クロもウミも華蓮も頷いてくる。


「まあ、荷物とかは乗せられますし、本当にいらなくなるまではもって行きましょうよ」
「そだなー。押せば進むしこれも」
「苦労の結晶だからな」


こうして一見邪魔に見える(実際今の時点では邪魔以外の何でもない)箱を皆で協力して押しながら、歩いて30分の町に僕らは向かったのだった。



今回の収穫

○箱(手作り) ○工具 ○食料(残量無し) ○少しの友情

04/2/5



 

 















皆で頑張ったね箱作り後編でした(前回と微妙に違う)
ちなみに、ちょこっと出てた三輪車が今の例の三輪車です。