亡霊
鈴木の城の2階でばったり出くわした黒フードの男。妙にビクビクしているその男を見て反応したのは約4人。
そのうちの3人クロとウミと華蓮は大声で叫んだ。
「「亡霊だー!」」
「ひっ人を見て亡霊だなんてひどいジェイ!」
ショックで思わず叫んだ男は、次にハッとして自分も叫んだ。
「あーっ!あんたたちそういえばあの時の奴らだジェイ?!」
「おっおいまさかあれだけ飛ばされて生きてたのかよジャックー!」
「えっ知り合い?」
あらしとシロがポカンとしているのを見て、男はシュビッと「J」ポーズをとった。
「オレっち魔法使いのジャックだジェイ!」
「この人が紫苑を元の姿に戻してくれた人ですよ」
「うそこれ魔法使いなの?!」
「見えないわー!」
「オ、オレっちちゃんと魔法使いだジェイ!」
悔しそうに地団太踏む黒フードの男ジャックは、確かに魔法使いだ。
その証拠に以前、石の呪いをかけられた紫苑をちゃんと元に戻してくれた。
その後、鈴木によってどこかにぶっ飛ばされて行方知らずになっていたのだが……生きていたらしい。
「どうしてこんな所にいるんだ?」
「オレっちわざと入ったんじゃないんだジェイ!道に迷ってたらいつの間にかここに来たんだジェイ!」
「道に迷ってこんな所に来るかあ?」
「本当だジェイ!んで、よく見たらここ『G』の城だったジェイ!見つかったらまた飛ばされちゃうジェイー!」
G?鈴木の事か。そういえば前にも『G』とか『J』とか聞いた気がする。
あらしは他の者から『G』という単語を聞いていた。
ジャックは、鈴木に怯えながらもこちらを見て話しかけてきた。
「でも、あんたらこそ何でここにいるジェイ?普通は入ってこれな……」
そこでハタとジャックの言葉が止まった。死神と目が合ったからだ。
しばらく固まるジャックを怪訝そうに見守る5人。先に口を開いたのは、死神だった。
「いつも通り元気そう、というかうるさいな、ジェイ」
「オレっちジェイじゃなくてジャックだジェイ!っていうか」
ジャックはプルプル震える指で、死神を指した。そして叫ぶ。
「どうしてあんたがここにいるんだジェイ、『O』!」
『O』?そのアルファベットに5人がポカンとする中、死神は少し嫌そうに眉を寄せた。
「「死神」と呼んでくれ」
「じゃあオレっちもジャックって呼んで欲しいジェイ!」
「あれ、「ジェイ」じゃなかったか」
「違うジェイ?!何度言えば分かるジェイ!」
「印象が強かったんだ。今度から気をつけるよ、ジェイ」
「気をつけようとしてないジェイ?!」
前からの知り合いのように会話をする死神とジャック。前も、鈴木とジャックがまるで知り合いのように会話をしていた。
そういえば、死神も鈴木の事をよく知っているようだった……。
すると華蓮が表情を歪めて言った。
「なるほど……これで色々とようやく分かりましたよ」
「え、何が?」
「死神さんもジャックさんも、鈴木の仲間なんですね」
鈴木の仲間?!5人の瞳に見つめられて、死神は複雑そうな顔になる。
「うーん。仲間というか、同族というか」
「あなた方について詳しく説明を求めます」
「そうだそうだ!説明しやがれ!」
「ちんぷんかんぷんよー!」
ぎゃあぎゃあ騒がれて、死神とジャックは仕方なさそうに顔を見合わせるのだった。
「オレっちたちは、闇の一族なんだジェイ!」
「「闇の一族?」」
5人は城の中を歩きながらジャックの説明を聞いていた。
ちなみに死神は積極的に説明に加わる気は無いらしく、1人前を歩いている。
「オレっちたちは闇から生まれたらしいんだジェイ!だからだジェイ!」
「闇から生まれたって……それ人間じゃないじゃん!」
「そうかもしれないジェイ!オレっちたちの一族には色んな奴がいるんだジェイ!」
「やっぱり強いんだろうな……」
「力に個人差はあるけど魔法使える分強いジェイ!」
得意げにジャックが話している所に、華蓮が小馬鹿にしたようにフッと笑った。
「本当に強いんですか?」
「つっ強いジェイ!?もの凄く強いジェイ?!」
「確かになージャック何か見た目的にも弱ぇもんなー」
「何言ってるジェイ!遠い大きな町を滅ぼしたりしちゃうんだジェイ!この前本当にやっちゃったんだジェイ!」
そこでジャックは勝手に1人でしょんぼりしてしまった。
「でも……オレっち確かに弱いんだジェイ。いっつも飛ばされたりするんだジェイ」
「いつも飛ばされてんのかよ?!」
「『G』……鈴木はすぐ飛ばすんだジェイ!『R』も『V』も『K』も他にも色々オレっちをいじめるんだジェイ!」
その一族とやらも内部争いが激しいらしい。そこでシロが尋ねた。
「ねーねー、じーとかおーとかじぇいとかー、それ何ー?」
「アルファベット……だよね?」
「オレっちたちの呼び名だジェイ!オレっちは『J』だジェイ!」
それは聞いていれば分かる。その隣で華蓮が指折り数え始めた。
「鈴木が『G』で……死神さんが『O』とか言ってましたね」
「そうだジェイ!えーっと……全部で26人だジェイ!」
「やっぱりアルファベットの数だけいるのか……」
「名前貰う前の仮の名だジェイ!」
名前を貰う?首を捻る5人を見てジャックはさらに説明してくれた。
「オレっちたち闇から生まれたから、名前を最初は持ってないんだジェイ!」
「自分でつけりゃいいじゃねーか」
「そこらへん複雑なんだジェイ!自分で名乗る変わり者もいるけどジェイ」
「ジャックは誰かに貰ったのー?」
「そうだジェイ!通りすがりの人に貰ったんだジェイ!」
結構どうでも良いのだろうか名前。そこでふとあらしは前を行く死神を見た。
「じゃあ、死神も「死神」っていう名前を貰ったんだ?」
「誰から貰ったかは知らないけど、多分そうだジェイ!」
「つまり偽死神ですね。鎌は持ってますけど」
そこでジャックは改めて考え込み、ハテと首を傾げ始めた。
「オレっち、同じ一族の間じゃまだ仲良しだけど、死神の事あんまり知らないジェイ」
「「え?」」
「あいつ『城』にも帰ってこないジェイ!集まりにも来ないし、いつもフラフラしてるんだジェイ!」
「城って」
「一族の家みたいなものだジェイ」
前に見た鈴木の部屋もその『城』の中だったのだろうかとあらしがぼんやり考える。
すると、前を向いたまま死神が口を開いてきた。
「別に、あっちに興味がないだけだ」
「ジェジェッ!『R』とかすごく怒ってるジェイ?!皆きっと死神のこと忘れてるジェイ!」
「それでいいよ、もう帰らないし」
「帰らないのかジェイ?!」
「たとえ『城』に入ったとしてもそれは『帰った』じゃない、『寄った』だけだ」
死神は肩越しにちらりと目を向けてきて、言った。
「もうあそこには、帰らないよ」
部屋も無いし、と死神が呟いている間にジャックは何か言おうとして、そして何も出てこなくて黙り込んでしまった。
何か色々と複雑らしい。
「他に何か聞きたい事はあるかい?」
「……そういえば、魔法って死神も使えるんだろ?」
「使った所見たことねえな」
そう言われて死神はしばらく考え込むように黙った後、振り返ってきた。
「使わない」
「「使えるんだ?!」」
「いや、使わない」
他には何も喋らない。すると華蓮が目を細めて責めるように言った。
「しかし、ここに入れたのも、消えたり現れたりするのも、あらしさんを”作った”のも、魔法ですよね」
「さあ、どうだろう」
のらりくらりとまともに答えようとしない死神に華蓮はどんどん怖い顔になっていった。
ので、残りの者は後ろの方で震え上がる。
「華蓮と死神って、見ているだけで気が合わないのが分かるよな……」
「っていうか華蓮が死神みたいな男が大嫌いだよね」
「のろのろしてる人が好きじゃないのよねー」
「紫苑以外の奴がな!」
「怖いジェイいつ撃たれるか分かんないジェイ!」
ひそひそ話していると華蓮がキッと振り返ってきた。ひいっと悲鳴を上げる5人。
しかし今の話に怒っているわけでなく、ただ単にいらついているだけのようだ。
「ああもう!近頃ハッキリしない奴が多すぎます!」
「シャープとか弥生とか、な」
「なあなあ、そういや聞いてなかったんだけどよ」
今更気が付いたようにクロがジャックに尋ねた。
「お前ら一族の名前って何なんだ?」
「……おおっ名乗るのすっかり忘れてたジェイ!」
「「おいおいおい」」
肝心なものを忘れていたようだ。ジャックは得意げに右手で「J」の形を作り、高らかに言った。
「オレっちたちは『エキセントリック一族』だジェイっ!」
「「エキセン……」」
その意味を知っていたらしいあらしと華蓮がブホッと吹き出した。
残りの3人は言葉の意味が分からず何に吹き出しているのかと首をかしげている。
「おっお似合いだと思いますよ非常にええこの上なく」
「そうだジェイ!長いから皆『エキセン』って呼んでるジェイ!」
「ねえっそれ誰がつけたの一体」
「さあなあ。『E』かなやっぱり」
また新しいアルファベットだ。まあ全員いるのだから仕方ないかもしれない。
そこで前を行く死神の足が止まったので、自然と全員が立ち止まった。
「いきなりどーしたのー?」
「うん、もうすぐ最上階だ」
「「えっ?!」」
目の前には急な階段がある。階段は頭上の高い天井に伸びていて……この上が、最上階だというのか。
死神は振り向いて、にやりと笑ってみせた。
「この先に目当てのものがあるようだ」
賢者の石が、この先の最上階に。
全員が顔を引き締め、一歩一歩階段へと近付いていった。
05/02/11
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エキセントリック一族が出ました。エキセントリック、意味調べてみたら吹き出した理由も分かるかと。
ちなみにこの一族は、杏社長の「ラフメーカーズ」にも出てます。しかも沢山。
是非見てみて下さい。変な奴らばっかりですその名の通り。