盗賊と城



それを見た時、5人はすぐに後悔した。それ、というのは、目の前に広がるこの光景の事だ。
即ち、広大な荒地の真ん中に突き刺さるように建つ、岩で出来た城のことだ。


「賢者の石を、盗むぞ」


そうやって言った死神に連れられてここに来たはいいが……何だこの城は。
見れば見るほどおどろおどろしい雰囲気がにじみ出てくる。正直言って、恐ろしい。


「あそこに多分賢者の石がある」


ケロリとした顔で城を指差す死神に、全員で恨みがましい目を向けた。
賢者の石を盗る前に王冠を届けるお使いがあったのだが、それは何と皇帝が届けるといったのである。
何でも聖域なら国の一部だから行く事が出来るとか。


「子孫にも会ってみたい事だしな。こっちは任せてくれ」


そうやって別れた皇帝はとてもウキウキしていた。死んでいるというのにひたすら元気な男だ。
その時、死神がさっさと歩き出した。


「さあさっそく行こうか」
「いやちょっと待てー!」


放っておけば1人でずんずか先に行ってしまう死神を急いであらしが止めた。


「一体ここはどこなんだよ!っていうかあの城何?!」
「ここはある辺境の誰も訪れない場所。そしてあの城は」


スッと城を指差して、死神は言った。


「鈴木の隠れ家だ」
「「隠れ家?!」」
「全然隠れてないじゃないですかあの大きさ!」


微妙にツッコミどころが違う華蓮に、死神は頭をかいてみせた。


「ここには普通の者は来られないようになっているから、十分隠れてはいるよ」
「そ、そうですか」
「本当は本家というか本城が別な土地にあるが、こっちで活動するために作ったみたいだな」


この城を死神は友人と一緒に探していたという事か。ふと、そこでウミが口を挟んだ。


「ちょっと待ってくれ。じゃあ賢者の石はその本家にあるんじゃないか?」
「いや、前に入ったがそれらしいものは無かった。なああらし」
「は?」


何故自分に振られるのか分からなくてしばしあらしは考える。
そして、鳥かごの中で目を覚ました時のことを思い出して、ハッとした。


「え、まさか、あの部屋が鈴木の本家だったの?!」
「そうだ」
「狭っ!」
「「狭いの?!」」


だからここに大きな城を作ったんだろうか。何はともあれ、死神は一歩踏み出して見せた。


「鈴木は今いない、盗るなら今だぞ死神盗賊団メンバー」
「「いや待て」」


全員で引き止める。すると死神は不思議そうな顔でこっちを見てきた。


「まだ何かあるのか?」
「それを言うならクロ様盗賊団だろうが!」
「違う!そもそも僕らは盗賊団とかじゃないし!」
「まあまあそんな固い事はいいじゃないか。ノリだよノリ」


明らかにこの状況を楽しんでいる死神にあらしは脱力した。こんなに呑気にやって良いものなのだろうか。
クロとシロは楽しそうにノッているが。


「賢者の石盗りにいきましょーおかしらー!」
「お頭か、良い響きだ」
「じゃあオレボスやるぞボス!」
「えーじゃああたし部長やるわー!」


もはや何でもいいらしい。疲れたあらしの隣で同じように疲れた声でウミが言った。


「大体、あいつ1人でもその賢者の石盗ってこれるんじゃないか……?」
「ああ……すごくそんな気がするよ」
「いつもの事じゃないですか、諦めましょう」


そう言う華蓮もやはりどこか疲れた様子だ。
ノリノリの3人と諦めた3人は、賢者の石を盗るために鈴木の城へ侵入したのだった。





城の中もすべて岩で出来ていた。もしかしたらこの城は1つの岩で出来ているのかもしれない。
正面の入り口から入ったそこは、大きな広間になっていた。


「この城のどこに賢者の石があんだよー」
「広いわー!」
「1つ1つ探していくしかないんですかね」


華蓮が右の方の扉を開けた。そこには1つの部屋がある。
そんなに狭くはないのだが……色んなものが散乱してぐちゃぐちゃだった。


「……せっかくの部屋が台無しですね」
「確かあの部屋も散らかってたような……鈴木って整理整頓苦手?」
「妙に人間味溢れる弱点だな……」


左の扉も開けてみるが、そこも雑多としていた。とにかく物が多い。
この中に賢者の石が埋まっているのかと思うと、気が滅入ってくる。


「おー!こっちは何か食堂みたいになってんぞー!」


正面の扉に入ったクロがそんなこと言うので、全員でそこに集まった。
なるほど、中央にテーブルが置いてある。鈴木1人であるはずなのに椅子もいくつか並べられていた。
確かに食堂のような部屋である。シロが目を輝かせた。


「もしかしてー、食べ物とかあるのかしらー?」
「いやー、あったとしても鈴木の食べ物だしなあ……」
「この部屋にはないみたいですね」
「じゃあきっと他の部屋にあるんだわー!」


シロが食堂の奥に入っていくのを見てクロも後をついていった。残りの者は広間に戻る。
そこには、左右の部屋を観察する死神がいた。


「へえ、色んなものを集めているんだな」
「この中に賢者の石があると思う?」
「あるかもしれないし、無いかもしれない」


結局分からないんじゃないか。あらしは呆れた顔で死神を見る。
死神はというと、なおも散らかった部屋を眺めていた。


「しかしこれは、整理する前に物が多すぎるな」
「……確かに」


部屋の床は積み重なる物たちで見えない状態だ。
一体どこから鈴木はこれらを持ってきたのだろう。やはり魔法だろうか。


「貪欲なまでに物を集めてしまうんだなあ」


その言葉に何か他の思いが込められているように感じて、あらしはもう一度死神を見た。
その顔はいつもののんびりとした顔だった。


「駄目だ、物が多すぎる……探しきれないぞ」


ウミが部屋の中からぐったりとして這い出てきた。勇敢にもこの部屋の中へ飛び込んだらしい。
飛び込む際におろしておいたタルをもう一度背負っていると、様子を見ていた華蓮がチッと舌打ちした。


「根性ありませんね。もうちょっと頑張ってみて下さいよ弱男」
「そっそれなら華蓮自身が入れば良いだろう!」
「か弱い女性に何てこと言うんですか」
「少なくともお前より俺のほうがか弱いと思うぞ!」
「ウミ、ウミ、それ自分まで追い詰めてるから」


今にも負けそうなウミをあらしが止める。
しかし、たしかにこの部屋から石1つを見つけ出すのはとても無謀な事のように思えた。


「で、結局どうしよう」
「どうしましょうか」
「どうすればいいんだ……」
「……ん?」


そこであらしは気が付いた。死神がいつの間にか目を閉じて何だか黙りこくっていたのだ。
いつもののほほんとした空気は無い。


「ど、どしたの死神」
「しっ」


死神は口元に人差し指をやっただけでまた黙ってしまう。目も閉じたままだ。
何か不思議なものを感じて3人は沈黙した。やがて死神は目を閉じながらも口を開いた。


「……上だ」
「「え?」」
「上に何か力を感じた」


どうやら賢者の石を探していたらしい。どうやってかは分からないがとりあえず気にしないでおく。
と、いう事は、この城の上の階にあるという事か。


「じゃあこの部屋には無いのか……よかった」
「しかし、上にはどうやって行くんですか。階段見当たらないんですけど」
「えっ?!」


パパッと見回してみたが、確かに無い。外から見た感じではまだ上がありそうだったのだが。
その時、バタバタと騒がしい足音が広間に響いた。


「おーっ!お前らそこにいたのかよー!」
「聞いて聞いてー!あたしたちあれ見つけちゃったのよー!」


食堂の奥に入っていったクロとシロだった。何だか凄く笑顔で走り寄ってくる。


「何を見つけたんだ?食べ物?」
「それはねー無かったわー。すっごくがっかりー」
「でもな!その代わりに階段があったんだよ!上にまだ部屋がありそうだぜ!」
「「嘘?!」」


これは朗報である。さっそく全員で食堂の奥へと駆け込んだ。
するとそこには、確かに岩で出来た立派な階段があった。


「わ、本当にあった!」
「珍しくお手柄ですね。これで上に行けますよ」
「そこに賢者の石があるんだな!」


階段は2階へと通じていた。わくわくしながら階段をのぼる5人と1人。
しかし、のぼりきった時そこに見えたのは……1人の真っ黒な男だった。黒いフードを被った男。
男もパッとこちらを見て、叫んだ。


「な、ななな何者だジェイっ?!」


その声を聞いて反応したのは、約4人であった。

05/02/02



 

 

 

















鈴木さんは、整理整頓する意欲はあるけど物が多すぎて手が付けられないみたいです。
身の回りはすっきりしているに違いありません。そんな神経質。いらない情報。