王子と姫
「あっあわわわわどどどうするでありますかこれは一体どうなって」
「シャープ、落ち着いて!」
「でっでももうあいつはいないようでありますが皆さんがしかもこれは」
「落ち着いて!とにかく、皆さんの手当てをしなければ……!」
外が静かになったのを見計らって通路から出てきたシャープと弥生が見たもの。それは、瓦礫の山の中に倒れている仲間達だった。
急いでシャープが瓦礫の中から皆を引っ張り出し、弥生がその状態を見ていく。
「……大丈夫、皆、気絶しているだけみたい」
「外傷はどうでありますか?」
「そんなにひどくはないわ……。掠り傷がちょっと多いけど」
「よかったのでありますー……!」
ほっと息をつくシャープ。しかし弥生は立ち上がって、あるものの前まで歩いていった。
しばし立ち尽くして、それを見下ろす。
「……でも、何で、こんな事に……!」
「弥生……」
シャープは震える弥生の肩をそっと支えてやる。その時、後ろでかすかなうめき声が。
「……うっ……」
「あっ、目を覚まされたのでありますね!」
「……その声は、シャープさんですね。という事は……あいつは去ったわけですか」
ムックリ起き上がったのは華蓮だった。血の滲む腕を痛そうに押さえながら顔をしかめてみせる。
しかし、元気そうだ。
「いたた……やってくれましたねあの男」
「華蓮さん!一体何があったんですか?!」
「いきなり鈴木がキレたんですよ。それで何もかも吹き飛ばして……。そのまま去るなんてあいつらしくないですが」
「そうじゃなくて……!その……」
華蓮はシャープと弥生の様子がおかしい事に気づいた。
鈴木も去って皆無事なはずなのに、何故あんなに悲痛な顔をしているのだろうか。嫌な予感がした。
「……まさか……誰か死んだ、とかじゃないでしょうね」
「い、いや!一応皆生きているのであります!けど……」
「…?どういう……」
「いかないでくれ水ー!」
いきなりの叫び声に言葉を止めて3人ともそちらを見る。
そこには、どこかへと手を伸ばして目を見開いたまま固まっているウミの姿が。
「……何だ、夢か」
「どんな夢を見ていたのでありますか?!」
「大体想像はつきますけどね」
「うっせえなあ!せっかく人が気持ちよく寝てたってのに!」
次にガバッと身を起こしたクロも、ポカンと周りを見回す。
「……あれ、ここどこだ?」
「寝ぼけないで下さいよ」
「っあー!そうだあの鈴木の野郎が!おい、あいつはどこだ!」
「も、もういないみたいですけど……大丈夫ですか?皆さん」
心配そうな弥生にそう尋ねられて、ウミは腕をぐるぐる回し、クロは勢いよく立ち上がった。
「……ああ、少し痛いが大丈夫みたいだ」
「このぐらいの怪我どーって事ねえよ!ぎゃはは!」
「それならよかった……!」
その時、華蓮の隣でシロもむっくりと体を起こした。眠そうに目をこするシロに、華蓮が尋ねる。
「シロさん、大丈夫ですか?」
「……おなかすいたー」
「大丈夫そうですね……」
「あっ!ドカーンて爆発したのよねー!皆大丈夫なのー?」
慌ててシロも見回す。クロを見てウミを見て華蓮を見て、ほっとしようとしたが、すぐに不安そうな表情に変わった。
「あれー?ねえねえ、あらしはー?」
「「あ!」」
「そういやいねえじゃん!何だよまだガレキの中なんじゃねーだろうな!」
「それなら早く掘り起こさなきゃ、干からびるぞ」
「干からびませんよ魚じゃないんですから」
「み、皆さん!」
動き出そうとした4人を、弥生の震える声が止めた。何事かと振り返れば、シャープが躊躇いながらも口を開く。
「あらし君は、見つかっているのであります」
「「え?」」
「でも……こんな、こんな事って……!」
堪え切れなくなったように弥生が涙声になる。4人は、先を争うように弥生とシャープの元へ走った。
そして、その足元を覗き込んだ。
とたんに皆、その動きを止める。
「……は?」
最初に声を上げたのは華蓮だった。しかし皆同じような顔をしている。
今、目の前にあるものが心から信じられなくて、全てを否定してしまいたかった。それでも、現実は消えない。
目の前に転がっていたもの、それは、
人形へと姿を変えた、あらしだった。
「こ、これは、一体、どういう」
「あらし型人形だ!」
「いえあの、あらし君本人だと思われるのであります……」
「う、嘘よー!何であらしがお人形さんになっちゃってるのー!」
シロが泣きついてガクガクと揺さぶる。しかし、人形の体はカラカラと空っぽの音を出すばかりだ。
外見はどこからどう見てもあらしなのに、その身は全てが抜け落ちてしまったように軽い。
泣き出したシロの後ろでは、クロが怒りの声を上げた。
「誰だよこんな事しやがったのは!やっぱあの鈴木か?!鈴木の野郎か!」
「あらし、まさか……死んでしまったわけじゃ、ないよな?」
顔色を青くするウミに、シャープが安心させるように声をかける。
「い、いや!多分魔法か何かで人形にされてしまったのだと、思われるのであります……」
しかし語尾は自信が無い様に力が無い。すると、人形にしがみついていたシロがぐすぐす泣きながら言った。
「でっでもー、何であらしだけお人形さんにされちゃったのよー。こんなの、ひどいわー!」
「そうだ!何であらしだけなんだよ!畜生!」
「弥生さんへの愛のパワーで持ちこたえて1人で立ち向かって返り討ちにでもあったんでしょうか……」
ほとんど半分正解である。華蓮の推測に、弥生がハッと口元を押さえた。
「そ、それじゃあ……!私のせいでこんな事に……!」
「弥生のせいじゃないのであります!全て鈴木のせいなのであります!」
「そうだあいつのせいだ!」
「鈴木が全面的に悪いな」
全員が口をそろえてそう言うが、弥生は項垂れて首を振るばかりである。
「元々私が巻き込んでしまったものですし……」
「あらしさんが自ら喜んで巻き込まれていったんでしょう、今回のは」
「嬉々として、な……」
「いえ、それでも、私には責任があります……!」
ぐいっと顔を上げた弥生の目には、涙と共に大きな光が映っていた。
「何故なら私には、鈴木を止めなければならない理由があるから……!」
「「!」」
「弥生……!」
驚いた様子で声を上げるシャープに、弥生は微笑みかけた。
「私達の使命がこんな事を引き起こしたのなら、全てを話す義務があるわ」
「……そうでありますね」
「まだ何か隠しているんですか?」
呆れたように言う華蓮にも弥生は微笑む。
「これで、最後です」
そして弥生は、凛とした声で話し始めた。
「実は鈴木との因縁は、私の先祖から代々続いているんです」
「「え?!」」
「私の先祖は……ある国の王でした。国は鈴木によって、滅ぼされましたが……」
先祖がある国の王。と、いう事は。
「弥生は歌姫であると同時に……」
「本物のお姫様って事ねー!」
ウミとシロの言葉に、弥生は少々悲しそうな表情で微笑む。
「だから私は、先祖と今は亡き国のために、鈴木を止めなくてはならないんです」
「私はそんな弥生を一生守っていくことを誓ったのであります!」
「じゃあお前王子様って事じゃねーか!」
「そ、そんな大層なものではないのであります」
シャープがからかわれている間に、弥生は皆へと頭を下げていた。
「だから皆さんを巻き込んでしまった事、本当に申し訳なく思っています」
「「………」」
「あらしさんはきっと、鈴木を倒せば元に戻ると思います。だから私がきっと、元に戻してみせます!」
「おい!そりゃあちょっと違うぞヤヨイ!」
反論してきたのは、やはり漢字発音が出来ていないクロだった。
「あらしは、仲間であるオレたちで何とかすっから、そんな何でもお前だけでやろうとすんなっての!」
「!」
「そうだ、あんたらはとにかく鈴木を止めてくれ。そうしたら、何とか魔法を解かせて見せるから」
クロに続いてウミも頷く。華蓮も不敵の笑いを口元に浮かべて見せた。
「奴を倒す目的がお互い出来たじゃないですか。これで気兼ねなく鈴木を倒す事が出来ます」
「そうよー!みんなで鈴木倒してー、あらしを元に戻してあげましょー!」
涙をふき取って、シロも元気良く拳を振り上げた。絶望的な気持ちから希望が生まれた。
仲間を元に戻すため、滅ぼされた国のため、理由は違えど今、互いに同じ目的が出来たのだ。これで完全に協力体制が出来た。
皮肉な事だが、一度敵に襲われ犠牲者が出てから、一致団結したのである。
「弥生……」
「……ええ!」
今は亡き国の王子と姫が頷き合う。全員の目が、1つの未来を見ていた。
「打倒鈴木!なのでありますー!」
「「おおーっ!」」
「うーん、これは少々やっかいな事になったな」
盛り上がる一団を、太い石柱の上から眺める黒い人影。その瞳は、今は黒い。
その黒き瞳をわずかに細めながら、人影は考えをめぐらせる。
「……仕方ない、こうなったら」
考えがまとまったのかそう呟くと、人影は、
「動くか」
その身を初めて動かして、石柱の上からそのまま空気に溶け込むように、消えていったのだった。
04/12/01
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祝!75話目!あと4分の1!
鈴木は色々満足しちゃったんで帰っちゃったんだと思います。代わりに色々忘れて。