荷馬車



森の奥深くに存在するオオカミ人間の村。村は今、和やかな雰囲気に包まれている。
その訳は主に2つ。今まで諸事情で村から出ていた仲間が2人戻ってきた事と、客が4人ほど訪れている事だ。


「あー……平和だなぁおい」
「そうだな、平和だ……」
「平和というのは良いものであります」
「そうだジェイ!平和が一番だジェイ!」


人様のうちでズズズと茶をすするこの4人。上から順にクロ、ウミ、傭兵、そして何故かジャックである。
そこへ、華蓮の母親が茶菓子を持ってきてくれた。


「さあ、どうぞ」
「おおー!ありがとなおばちゃん!」
「お菓子だジェイー!」
「そ、そんな、悪いでありますよ」
「俺たち何もしていないし」
「いいんですよ、娘のお手伝いしてもらったんですから!」


ゆっくりしていってね、と微笑み去る母親の背中を見送ってから、茶をすするウミがふと口を開く。


「そういえば華蓮はどこだ?」
「あーカレンならほれ、愛しの彼の元にいるだろうよ」
「やっと会えたんでありますから、それはそれは嬉しいのでありますよ」


ジャックと菓子の取り合いをしながらのクロの言葉に、傭兵がしみじみと頷く。
この傭兵も大切な人を探している最中らしいので、気持ちが分かるのかもしれない。
どうでもいいが、鎧姿のどこからこいつは茶を飲んでいるのだろう。


「その紫苑って男の様子、オレっちも気になるジェイ」
「んだよなー!何かフラフラしてたしよ!」
「呪いが解けたばっかりで調子悪そうだったからな」


4人は、昨日の人の姿に戻った紫苑の様子を思い出した。
華蓮としばらく幸せそうに抱き合っていた紫苑は、いきなりクラッと体を傾け始めたのだ。呪いが解けたばかりで力が出ないらしい。
というわけで、その後猛スピードで村へ戻ってきて、今現在紫苑は自分の家で休んでいるのだ。


「結局帰ってきたのは朝方近くて、ひと眠りした後こうやって茶を飲んでいる所だしな」
「ウミさん何だか説明口調なのであります」
「っしゃ!シオンのやつの見舞いにでも行ってやるか!」


菓子をあらかた食べつくしたクロがそう言うと、全員が立ち上がり始める。何だかんだ言ってみんな暇なのであろう。
そのまま男4人でブラブラと村の中を歩き始めた。


「んで、シオンの家ってどこだっけか?」
「忘れたジェイ?村に入ってからえーと……しまった忘れたジェイ!」
「皆忘れてるのか?!」
「紫苑さんの家はあれであります!」


幸い傭兵が覚えていた。早速中へと入る4人。すると、すぐに嫌そうな顔をした華蓮が出迎えてくれた。


「……何しにきたんですか邪魔虫たちが」
「はっきり邪魔者呼ばわりしてきたのであります!」
「ひっでえな、オレたちシオンの見舞いに来たんだぜ?」
「いりません帰りなさい」
「断られたな……」
「大体、何であなたまでいるんですか」


あなた、と華蓮が指したのは「J」ポーズをとっているジャックである。
そういえばと、今更のように他の3人もジャックに目を向けた。


「傭兵さんはともかく、あなたの用はもう済んだのですから帰って下さい」
「ひどいジェイ!少しぐらい一緒にいちゃ駄目なのかジェイ?!」
「駄目です」
「人の情と書いて人情が一欠けらも感じないジェイー!」
「あなたにはそんなもの必要ありません」


華蓮がジャックで遊んでいる間に、3人はさっさと紫苑の部屋へと入った。華蓮が本気で帰れとか言う時は拳銃を取り出すからだ。
その証拠に、後からしょぼくれたジャックと一緒に華蓮も入ってくる。
紫苑は、ベッドの上に半身を起こして出迎えてくれた。


「ああ、皆来てくれたのか」
「よっ!来てやったぜ!」
「来てくれと頼んだ覚えはありませんよ」
「体の方は大丈夫なのか?」
「大丈夫。まあ……まだ本調子じゃあないけどね」


具合を確かめるように紫苑は腕を曲げ伸ばしして見せた。その様子を、華蓮はどこか心配そうに見つめている。


「でも、他に悪い所もなさそうで良かったですよ」
「オレっちのおかげだジェイ!」
「やかましい、引っ込んでなさい」
「ひい!彼氏とオレっち達とで態度が違うジェイ!」
「これぞ女心なのでありますよ」


とそこで、ウミが何かを思い出したように口を開いた。


「そうだ、傭兵、これからあんたどうするんだ?」
「何がでありますか?」
「ほら、俺は仲間に会えたからいいけど、あんたは大切な人を探すんだろう?」


ウミの言葉に、その通りだと傭兵は頷いてきた。


「私はこれからも大切な人を探さなければならないのであります!しかし!」
「「しかし?」」
「一体どこを探せばいいのか、見当が付かないのであります!」


くうっと悔しそうに拳を握り締める傭兵。それに、華蓮が小首を傾げながら口を挟む。


「では今までどうやって探していたんですか?やはり適当に?」
「いや、今までは少しのヒントを得る事が出来たのであります!」
「「ヒント?」」
「しかし、近頃は少しも得ることができなくて……困っているのでありますよ」
「ヒントを得るって……」


どうやって?と質問しようとしたが、それは出来なかった。
傭兵がいきなりガチャンと鎧を鳴らしながら天井へと顔を向けたからである。
いや、顔は天井を向いてはいるが、鎧の隙間から見えるその目は、その向こうの天を見つめているように遠くを見ている。


「ど、どうしたんだ傭兵」
「……呼んでいるのであります」
「「はあ?」」


いきなり読んでるとか言い出した傭兵を、全員が一瞬「狂ったか?」とか考えてしまう。
しかし傭兵は真剣そのものの声でキッパリと言った。


「私の探す大切な人が、呼んでいるのであります」
「呼んでるって……」
「どこから呼んでるっつーんだよ」
「この方角は……間違いない、天国の方向からなのであります!」
「「天国?!」」


クロとウミと華蓮は揃って声を上げていた。
天国と聞いて思い出すのは、共に旅する仲間である白く可愛らしいあの子の姿。今ちょうど天国に帰っているはずだ。
傭兵はなおも言い続ける。


「と、いう事は……天国が今危ないのであります!」
「て、天国が危ないだとぉ?!」
「一体どういう意味ですかそれは?」
「説明している暇は無いのであります!ああ、急がないといけないのであります!」
「お、おい待てって!」


わたわたとさっそく部屋を出て行こうとする傭兵を慌てて全員で止めた。


「止めないで欲しいのであります!私はこれから天国へ行かなければいけないのであります!」
「だーから、落ち着けって!」
「危ないって一体どう危ないんだ?」
「危ないものは危ないのであります!」


必死な様子の傭兵。どうやら本気のようだ。3人は顔を見合わせた。


「……危ないって、まさか、シロのやつも危ないって事かよ?」
「この話が本当ならば、もしかしたら……危ない事に巻き込まれている可能性もありますね」
「シロ1人だからな……大丈夫か?」


本当はシロと一緒にあらしもいるのだが、それを知らない3人はオロオロし始めた。
いつもニコニコ笑ってたあのシロが、もしかしたら危ない目にあっているのかもしれないのだ。


「とりあえず私は他の人に何か乗り物があるか聞いてくるのであります!」


傭兵は3人がオロオロしている間に外へ飛び出していった。さて、これからどうすればいいだろう。
と、その時、それまでずっと様子を見ていた紫苑が口を開いた。


「華蓮、行ってきな」
「……え?」


びっくりして華蓮が振り向くと、紫苑は柔らかい表情で微笑んでいた。


「仲間がその天国にいるんだろう?それなら、行ってあげなきゃ」
「でも、紫苑が」
「おれなら大丈夫。ただ、この調子だから手伝う事は出来ないけど」


それに、と、紫苑は笑いながら華蓮に言った。


「華蓮、旅のことが忘れられないんだろ?顔に書いてあるぞ」
「……!」
「おれはずっとここで待ってるから、行っておいで」


華蓮はしばらく何かを言いたそうに口をパクパクさせていたが、やがてフッとため息をついた。
そして、背後のクロとウミを振り返る。


「あなたたちももちろん行くのでしょう?」
「当たり前だろ!」
「でも華蓮……本当にいいのか?」
「無論です。……紫苑」


紫苑の元に近寄った華蓮は、そのままぎゅっと抱きしめた。


「……いってきます」
「いってらっしゃい華蓮。……気をつけろよ」
「ええ」


立ち上がった華蓮は、キッとした表情で部屋の出口へと向かう。


「さあ、グズグズせずに行きますよ」
「ああ」
「でもよ、普通逆じゃねえか?男の帰りを待つ女、って感じでよ」
「クロ、それ以上言うと撃たれるぞ……」


家を出ると、そこには荷馬車と共に立つ傭兵の姿があった。


「おー!馬だ馬だー!」
「よく借りてこれたな、荷馬車なんて」
「あれ?あなた方も行くのでありますか?」
「ええ、私達も大事な仲間の元へ、ね。同行していいですか?」
「もちろんであります!さあ、もう出発するでありますよ!」


急げ急げと荷馬車へ乗り込む。と、中には何故かちゃっかりジャックの姿が。


「あ?何でお前がいんだよ」
「やーオレっちちょうど退屈してたし、面白そうだからついてこうかと思ったんだジェイ」
「邪魔です消えなさい」
「あ、相変わらずひどいジェイ?!」
「それじゃ、出発なのでありまーす!」


騒ぐ5人を乗せた荷馬車は、色々な想いを乗せて天国へと向かうのだった。

04/10/04



 

 

 
















さて、ジャックはいつ荷馬車に乗り込んだのでしょうか。
@魔法使いらしく、瞬間移動で
A傭兵が荷馬車を借りる前にこっそり待機していた
B傭兵が荷馬車を借りた後にいそいそと乗り込んだ

答えは、Cの「華蓮とクロとウミが荷馬車の元へ来る前にダッシュで追い越して慌てて乗った」でした。