霧深い都市
「これまた呪われてるーってな所だな」
クロのぼやきを否定するものはいなかった。全員そう思っていた所だからだ。
5人は今、箱ごと深い霧の中に飲み込まれていた。
「もうここは都市の中なんでしょうか?」
「霧の中にいるから、そうなんじゃないか?」
「遠目から見ても霧しか見えなかったからねえ……」
そう、ここはまさに霧の塊だった。
廃墟の都市からしばらく進むと、前方に白いもやみたいなものが見えた……。
と思ったら、霧にあっという間に取り囲まれてしまったのだ。
今は箱を降りて、辺りの様子を見ている所である。
「この霧が呪いなのかな」
「おそらく」
「でもこれで都市が滅びるものなんですか?」
「人がいないのは確かだろうけど」
確かに人の気配はしないが、これでは前も殆ど見えない。
シロなんてよく目を凝らさなければ見失いそうになるほどだ。
「シロは霧にすぐ隠れちゃうなあ」
「えへへー、保護色、保護色ー!」
「オレはすんげーバッチリ見えるだろ?」
声のした方を向けばぼんやりと黒いものが見えたので、あらしは大きく頷いてやった。
見えたかどうかは分からないが。
「見える見える。お前はいつも目立つんだなあいろんな意味で」
「照れるじゃねーか」
「いや皮肉で言ったつもりだったんだけど……」
「ダメですよあらしさん。単細胞だから遠まわしに言っても通じませんよ」
「おいカレン……その言葉の意味は分かったんだがなーハッハッハ」
「あらそうですか、うっふふふ」
きっと霧の向こうではバチバチと火花が散っているに違いない。
もうどうしていつもこいつらはこうなんだよとあらしはこの霧のように深いため息をつく。
すると、その不毛な会話にウミが乱入してきた。
「おいお前たちそんな事やってる場合じゃないだろう」
「何だよ半魚人」
「何ですかへたれ迷子さん」
「2人して俺をけなすか?!」
「あーもういいから行こうよ。ここにいても何にもならないんだし」
「お腹すいたー」
こんな霧の中でもギャーギャーうるさい連中に、あらしは呆れを通り越して思わず感心した。
さすが非凡のやつらだ。
とりあえず5人は、箱を慎重に押しながら霧の中を進んだ。
ふとあらしは、隣を歩いている……と思われるシロに話しかけた。
「この都市はシロみたいだな」
「ええー?そうー?」
「すんごい真っ白じゃないか」
「ふーん、そっかあー」
そこでシロが、こちらに振り向いてきた気配がした。
「でもあたしは、シロって名前似合わないと思ってるんだー」
「え?そうかなあ」
「そうよー」
スゴイ似あってると思うんだけど、とあらしは思ったが口には出さなかった。
もしかしたら本人はもうちょっとカッコいい名前が良かったのかもしれない。犬みたいな名前だし。
「ねーねーそれよりあたしもう限界よー!何か食べよー!」
「この霧の中で?」
「頑張れば食えるんじゃねーの?」
「んな無茶な……」
「ちょっと皆さん、あっちに何か見えませんか?」
「「ええっ?」」
唐突に華蓮が前方に目をやりながら言い出した。
「そういえば少し霧が晴れてきたような……」
「そろそろこの都市の中央付近じゃないか?」
「真ん中に何かあんのか?」
「ご飯食べるならもっと謎っぽくない所で食べましょうよー」
「でもこの都市は危険ではないはずですよねえ?」
5人とも思わず足を止めて円陣を組み、あーだこーだと言い合いを始めた。
目の前に見えてきた、何だか黒くて大きなものが怖いからであろう。
「……どうする?」
「どうする……」
「どうすんだ?」
「どうすんのー?」
「どうするんですか」
「よし行ってみよう」
「「ええー?!」」
一斉に叫んだ4人を、あらしはじと目で見つめた。
「じゃあどうするんだよ」
「そ、それは…」
「危険ではないですか?」
ぶつぶつ言ってるウミと華蓮の隣で、よっしと勢いよく立ち上がったのはクロだった。
「確かにウジウジしててもしょーがねーし、行くかあ」
「ご飯のためならレッツラゴー!」
さっきから腹減ったとうるさいシロも覚悟を決めて同じように立ち上がる。
それを見て、華蓮は諦めたようにため息をついた。
「……まあ、危険な時は私だけでも逃げれば良いですよね。行きましょう」
「げっ、結局行くのか……?」
「もちのろん!」
こうなったらウミも逆らえない。しぶしぶといった様子で頷いた。
やっと意見がまとまった5人は、その何だか黒くて大きなものの方へと慎重に進んだ。
箱の陰にそろって隠れながら、だったが。
やがてその黒いものの正体が分かった。
いきなり目の前が開けたのだ。
「「……!」」
「これは……!」
しばらくそれを見て誰も動けなかった。
その、何だか黒くて大きなものは、この霧深い都市をつくっているものの正体だったのだ。
03/12/7