混血



全員がしばらく無言だった。見事崖からクロとリュウを救出する事が出来て、一同声もなく荒い息を整えていたのだ。
一番最初に声を出したのは、死んだように地に倒れ付していたクロで、


「……うおおっしゃあー!生きてるぞーっ!」


と大声を上げながら飛び起きた。
全員でクロを見ると、少し照れくさそうにニシシと笑いながら、クロは頭を下げてきた。


「みんな!ありがとな!」
「………」
「ああ、まったく……もうだめかと思ったんだぞ」
「どういたしまして」


皆で顔を見合わせて笑いあっていると、シロがすごく申し訳なさそうにクロのそばへとやってきた。


「クロ……ごめんねー……」
「あ?」
「あたしせっかく翼があったのに、助けてあげられなかったしー……」
「何シロが謝ってんだよ。調子悪くて飛べなかったんだろ?仕方ねえじゃねーか」
「ううー……」
「それに飛べなかったのはお互い様ってやつだろ」
「確かに、それじゃあ飛べませんね」


華蓮がクロを、というかクロの背中を指して言った。クロの背には、左側しか存在しない黒い翼が生えている。


「それは生まれつきのものなんですか?」
「いや、色々あってな、ある日右をやっちまったんだ」
「やったって……」
「そういえばリュウの翼、片方だけ黒かったな……」


ウミがまだ意識の戻らないリュウを見ながら呟いた。
確かにリュウの翼は左が体と同じ赤で、右だけが夜のように黒かった。そう、クロのような黒。
すると、クロはにやりと笑ってみせた。


「言ったろ?オレとリュウは翼を分け合った仲だって」
「確かに言ってたなあそんな事……」


つまり、リュウの黒い翼はクロの右の翼だったという事か。


「何で翼をあげてしまったんですか。不恰好ですよ」
「うるせえ!いいんだよオレどうせ飛べなかったし、竜が飛べないってのは余計にかっこ悪いだろ?」
「でも何でリュウの翼が片方なくなったのさ」


あらしがそう尋ねると、クロはしばらく考え込むように黙って、


「……色々あったんだよ!色々!」
「色々ねえ」
「そういえばリュウ、目ぇ覚まさないわねー」


シロがリュウを覗き込みながら言った。
空の上で何があったのか落下していた5人は分からなかったが、あの科学者が出してきた石が原因だろうと思われる。
あれは一体なんだったんだろうか。


「竜に関わるものだろうとは思うけど」
「俺たちは何とも無かったわけだからな」
「くっそーあのくされ科学者、あんなもん持ってやがったなんてー」
「まったくエディちゃんったらー」


皆で呼び名エディちゃん禁止と豪語していたエンティ・ドマーの悪口をブツブツ言っていると、微かなうめき声が聞こえてきた。
リュウが意識を取り戻したのだ。


「リュウー!」
「大丈夫ー?!」


クロとシロが呼びかけると、リュウはうっすらと目を開いた。まだ覚醒したばかりでボーっとしている。


「……ここどこだ……?」
「森ん中だ。お前いきなり落ちてきたんだぜ?」
「そうそう、変な石みたいなのを見て変な風になって」
「おまけに谷底へまっさかさまに落ちる所だったんですから」
「ところで体は何ともないのか?」
「そうよー!怪我とか痛い所とかないー?」


リュウは今まであったことを思い出しているのか、しばらくそのまま横になっていた。
と思ったら、突然ガバッと身を起こしてきた。


「そうだ!あのエディ公!いきなりあれ出してきやがったんだ!」
「「あれ?」」
「そうあれ!あいつ一体どこであれを……!」


とそこできょとんとした皆の顔を見たリュウは、1つごほんと咳払いをして、話し始めた。


「あーお前ら、竜石っつーの、知ってるか?」
「リュウセキー」
「聞いた事もありませんね」
「まあ普通はそうだ。特別なもんだからな」
「さっきの石はその竜石というやつなのか」


そうだ、とリュウは頷いてみせた。


「あれは竜にとってずいぶんとやっかいな代物でな……。まあ、この世界のどこかに竜山っていう竜の聖地みたいな所があんだよ」
「何もかも竜ってつくんだなあ」
「セイチって何だ?」
「大切な場所って所かな」
「まあそんなもんだ。で、その山だけに転がってるのがさっき言った竜石だ」


リュウは苦い顔をしながら竜石について説明してくれた。


「その竜石はなあ、竜の力を吸い取っちまうんだよ。どういう仕組みでかはおれにも分からないんだが」
「「吸い取る?!」」
「ああ。だから竜の姿を維持できなくなっちまったんだ。とりあえずお前らは先に木の方へぶん投げられたけどな」


やはりリュウは考えて落としてくれたようだ。感謝しなければならない。


「でもほら、おれ竜といっても竜人だからよ、完全には力なくならねえし。ただ人の姿に戻って竜になれないぐらいだから大丈夫だ」
「じゃあどうして気絶してたのよー?」
「いや、あのエディ公が投げてきた竜石が頭にガツンと当たってな」
「「投げたのか!」」


なかなか貴重品を粗末にするやつである。とそこであらしが尋ねてきた。


「ということは、竜人じゃない竜もいるの?」
「ん、ああ、人の姿をもたない竜ってわけだな。そりゃいるぜ。つーか、そっちが本場もんの竜ってやつだろ」
「確かに」
「つまり、竜人には竜と人の血が流れているというわけですね」


その発言に、全員で華蓮の方を見た。


「私も同じようなものです。オオカミと、人の血。人魚もそうなんじゃないですか?」
「むっ……そ、そうなのか……?」
「悪魔はどうなんだ?おい」
「天使は、天使はー?」
「少なくとも、全ての人型の種族には人の血が流れてるんじゃないかと私は考えています。どうやって交わったのかはさておき、ね」


まったくの純の人間(おまけに凡人だと本人は思っている)のあらしは少々複雑な思いで華蓮の話を聞いている。


「まあそういうわけでおれはしばらく竜にはなれない。よってお前達を運んでやる事もできん。すまない」
「何謝ってんだよ。あのくされ科学者が全部悪いんだからいいんだよ別に」
「それもそうだな」


この前向きな思考、というか開き直りの早さは性格なのか竜だからなのか。


「もしかしたらあの科学者、今リュウを探してるんじゃないのか?」
「その可能性はありますね」
「えー、じゃあ早く逃げちゃいましょうよー」
「ってかまだ箱を下に降ろしてねえよ!お前ら手伝え!」


皆がどたばた動き出したのを眺めながら、あらしはぼんやりと考えていた。

ここにいる6人全員の中に流れているかもしれない人間の血。
しかし純血でなお一番に数の多い人という種族。


混血のものよりも誰よりも、一番脅威なのは人間なのではないか、と。

04/1/9



 

 

 















竜石とか竜山とかは、うちオリジナルなんで、他のファンタジーには無い可能性がっていうか無いです。