主従
その闇は底無しのようにどこまでも広がっているようであった。
冷え冷えとした階段に足を下ろすたびにカツンカツンと辺りに響く。もうどのぐらい降りてきただろうか。
「魔王ーな〜んてヘナチョコさ〜真の王はオレたち悪〜魔〜」
いや、響いていたのは足音だけではなかったようだ。
「クロさんさっきからうるさいですよ」
「何だよ、オレが気分を盛り上げてやってんじゃねーか、有難く思え」
「盛り上がる前にウザイです」
2人の声が狭い壁に反響する。台座の下に現れた穴からずっと階段を下りてきているのだが、まだどこにも着かない所だった。
「大体この下には何があるんだ?だれか住んでいるのか?」
こういう時いつもビビっているウミは今回もビビっている。まあ今回は仕方が無いかもしれない。
どこまでも続くこの穴は、正直言って怖い。
「ってかクロ元気だなー」
「オレはいつでも元気だ!」
「今回は余計に元気ですよね」
「竜に会えるかもしれないからでしょー?」
「ったりめえよ!リュウはまだかー!」
「この下には竜がいるとは思えないんだが……」
その時、階段が途切れた。小部屋にとうとう着いたのだ。
石の壁に囲まれた質素な部屋だったが、部屋の真ん中にはなぜかベッドがあった。そしてそのベッドの上には、誰かが寝ていた。
それは人間の形をしていて、そして男だった。
まさか……英雄がこんな所に寝てると言うのか?!
だれも動けないでいると、その寝てた男はむっくり起き上がった。
「くああーっ!あーっよく寝た!今何時だあ?」
ぐーんと背伸びをする男は、一見英雄とは程遠いように思えた。
英雄は耳にピアスをするものなのだろうか。しかもいかにも遊び歩いてそうな兄ちゃんだ。
すると、クロが目を見開いたまま一歩踏み出した。
「あ……ああ……」
「ク、クロ?どうした?」
「おっお前は……っ!リュウ!」
「「はあっ?!」」
すると、男もこっちにやっと気がついたみたいで、口をあんぐりと開けた。
「おいおい……まさかクロじゃねーだろーなお前!」
「っリュウー!」
「クロー!」
2人の男は狭い地下の小部屋の中でガッチリ友情パワーで抱き合った。
展開についていけない4人は、ただ呆けたように突っ立っている。
「やっぱここにいやがったかリュウ!一体何年ぶりの再会だよおい!」
「まさかこんな所で会えるたあ思わなかったぜクロ!でかくなりやがってこの野郎!」
「おめーもさらにでかくなってんじゃねーかあ!」
「「ぎゃはははは!」」
「……あのー、もしもし?」
「「あん?」」
肩をバシバシ叩き合うクロと男に、あらしはやっと声をかけることが出来た。
「えーっと……その人は……」
「リュウだ」
「へぇそう……そのー……クロの知り合い?」
「おう、親友だ」
「まさか今までリュウリュウ言ってたのは……その人の事で?」
「あ?他に誰がいるってんだよ」
真面目顔で答えるクロに、あらしは体の力が抜ける思いがした。
そう、クロは竜に会いたかったのではなく、今目の前にいる親友リュウに会いたかったらしい。それであんなに張り切っていたのか。
「ちょっと待って下さいよ。何でその親友がこんな所で寝てるんですか!」
「そうだ、何でだリュウ」
「いやーある日突然眠くなってな。邪魔されたくなかったから地下に寝てみたんだがなかなか寝心地が良くて、思わず何年か眠っちまったぜ」
「んなアホなぁっ!」
ちょっと寝るためにこんな仕掛けを置くものなんだろうか。しかも何年かって。
すると、シロがいつもの笑顔でリュウに尋ねた。
「ねえねえ!クロの友達ってことはあなたも悪魔なのー?」
「うんにゃ、おれは竜だ」
「へー」
「ふーん竜かーってどういうこったそりゃあ!」
あらしがダンと床を踏みつけると、リュウは呑気に笑ってみせた。
「こいつおもろいなー」
「いいから質問に答えろや!」
「あらし落ち着け、とりあえず刃物は出すなよ刃物は」
どうやら急な展開で相当きているらしい。
リュウはどいしょとベッドに腰を下ろして、改めて口を開いた。
「まあ詳しく言うとな、竜人だ」
「は?」
「リュウジンー?」
「竜の姿にもなれるし人の姿にもなれるし、どっちもおれだ。分かるか?」
「まったく分かりません」
「つまり竜だろ?」
クロはサラッと言うが、そんなに簡単には納得できない。
するとクロはビシッといきなりウミを指差した。
「つまりお前だ!」
「……はっ?」
「普段は人間だが水ん中では魚だろ?それと同じだ!」
「魚じゃない人魚だ!」
「なるほど、人でもあり竜でもあるんですね。分かりました」
「今ので分かるなっ!」
「でも竜って……」
まさか、伝説上の生物が実在して、なおかつそれが目の前にいる男だなんて。
クロもすごいやつと親友になれたもんである。
「どうして竜と友達なんだクロ……」
「こいつが地獄に一度遊びに来たんだよ。その時だな」
「妙にウマがあったんだなーこれが!」
「随分と仲良いわよねー!」
「おお!何てったってオレとリュウは翼を分け合った仲だからな!」
「その通りだ!ぎゃははは!」
どんな仲だよ……とあらしは心の中でつっこんでいたが、ハッと思い出した。
そうだ、自分達は何故こんなに苦労してこんな所へ来たんだ!
「お宝っ!」
「は?」
「あ、忘れてました!竜のとてつもないもの!」
「なんだそりゃ」
首をかしげるリュウに、ここに来るまでの経緯を話してやった。
竜のことが書いてある本に、英雄の噂、そしてお宝。
話を聞き終えると、リュウはうーんと考え込んだ。
「そいつはおれじゃねえな。他の竜の事だろ」
「何だーがっかりー」
「ってかやっぱり他にもいるのか竜」
「確かに彼方の地って所じゃありませんしねここは」
どうやらここはハズレのようである。竜に会えたのはラッキーだったが。
はーっとため息をついていると、リュウがベッドからゆっくりと立ち上がった。
心なしか、目には危険な光がちらついているように見えたり。
「しっかし、許せねえのはその英雄だな」
「……え?」
「悪い竜を倒したあ?……竜はそんなにヤワじゃねえっ!」
「そうだそうだ!」
吼えるリュウ以外に立っている者は、クロとシロだけであった。他の者はリュウの怒りに腰を抜かしてしまっている。
さすが竜……睨むだけで人を殺せそうである。
顔が怖いとかそういうのではなく、気というものが伝わるのだ。
「大体なあ、竜はそんなちゃっちい事はしねーんだよ」
「ちゃっちいって……町襲ったり、森燃やしたり?」
「ん、そうだ!」
恐ろしい事をちゃっちいの一言で片付けられる竜はやはり偉大だ、
「何故なら竜は最強だからだ!アイアムナンバーワン!」
「よっ世界一!まあおれも最強だけどな!」
「それを何だ、たかが人間の英雄に倒されましただと?何様だー!主従引っくり返す気かー!下克上ってやつかー!」
もはや竜にとっては人間など下僕のようなものらしい。まあ力の差的に言えばそうなのだろう。
リュウは手をバキバキ鳴らしながらニヤーッと笑った。怖い。
「よーし、その英雄サマってやつの顔を拝んでやるぜ」
「え……ええ?!」
「おれが寝てる間に何やらでっかい像でも建てたらしいじゃねーか。見てやるんだよその像を!」
「マジですか?」
「大マジもマジだ!行くぞーてめえら!」
「「おーっ!」」
ズンズンと階段に向かうリュウの後にクロとシロが続く。こいつらには恐ろしいという感情が無いのであろうか。
それを見て、あらしとウミと華蓮も慌てて後についていく。
主従関係はともかく、逆らうと怖いであろうリュウに抵抗できるわけもなく、5人は従者の如くついていくのだった。
04/1/3
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竜人の設定は言うまでも無くうち独自ですので。そこんとこよろしくお願いします。