嫌いなものは、嫌いなんだ。



   嫌い



「大っ嫌い!」


「あっ」


ドタドタドタドタ……バタン


「待ってくれ!」


コンコン


「ここを開けてくれないか」


「嫌だ!」


「そんな事言わずに」


「嫌い。だから開けたくない」


「………」


「………」


「……そんなに嫌いか?」


「嫌い」


「君のためなんだ」


「何のためだよ。そっちが面白がってるだけだろ?」


「そんな事は無い」


「あるっ!」


「……何故、そんなに嫌うんだ……」


「………」


「なあ」


「……痛いんだ……」


「ん?」


「痛いんだよ、側に、いるだけで……」


「……そんなに痛いのか?」


「痛い……もう二度と、あんな思いしたくない」


「……そうか……」


「………」


「だがな、その痛みを乗り越えなければならないんじゃないか?」


「……え……?」


「いつまでも逃げてばかりいては、何も始まらないだろう」


「………」


「自分から歩き出さなければならないんだ」


「……1人で……?」


「いや、違う。自分も一緒だ。だから、ほら」


「……死神も?」


「ああ、共に痛みを分かち合おう」


「いいの?……すごく、痛いかもよ」


「平気だ。2人ならば、きっと」


「………」


「さあ、行こう」


「……うん……」


ガチャッ


「なんだ、泣いていたのか?」


「な、泣いてなんかないよ!」


「ここに涙のあとが」


「見るな!気のせいだよ!」


「ふふふ、そうだな、気のせいだな」


「……何だかムカつくなあ……」


「さて、それでは行こうか」


「………」


「……怖いか?」


「怖くない、嫌いなだけだし」


「痛いのだろう?」


「………」


「それならば、こうしているといい」


ぎゅっ


「……手を?」


「そう、握っていれば、痛いかもしれないが怖くはない」


「……怖くないって言ったのに……」


「では離せば」


「い、いや、これは、このままでいい!怖くないけど!」


「ふふふ。……ほら、この部屋だ」


「……うん……」


「頑張れ」


「ありがとう……」



ドアの向こうから聞こえる悲鳴。

君の痛みは、自分の痛みとなる。



「……やはり……痛いのは、嫌いだな」



君も、自分も。きっとどこかで繋がっているから。

分かち合おう。嫌いなものも、2人でなら平気だから。









ガチャ


「ただいま……」


「どうだった」


「……やっぱりどうあがいても嫌いだよ……注射は……」


「うむ……何と言っても、刺すのだからな」


「そうだよ。刺すんだから痛いのは当たり前なんだよ」


「しかし、手を握っていたから少しは大丈夫だったろう?」


「うん。ありがとうコバ」


「ニャーン」


「でも、本当に死神もするの?」


「もちろん。予防注射というものはしなければならないのだろう?」


「それは、まあ」


「これもいい体験だ。……では、いってくる」


「いってらっしゃい」


「……。……その前に……」


「?」


「コバを貸してくれ」



少年は注射が嫌いだ、というお話。



「思っていたより平気だったな、注射」


「嘘っ?!」


「ニャン」



しかし、自分が嫌いなものが他人まで同じだとは限らないらしい。

04/03/30




 

 

 



















またやっちゃった。
もちろん妄想はご自由に……。