「初詣とは何だ?」


その一言が、皆を集めた。



   その時朝日は昇っていた



「お前、何気に何も知らないよな」


その場に居合わせた友人が呆れた顔をする。ここは公園で、死神と少年の買い物帰りに友人と出会って世間話をしていた所だった。
元旦は初詣に行くのかと少年と友人が話している所に、死神が尋ねてきたのだ。


「初めて聞いたものでな」
「元旦神社にお参り行く事だよ」
「ふむ。元旦……1月1日、年の始まりの日だな。なるほど」


少年の説明に死神は納得したらしい。話を戻して、友人はもう一度尋ねた。


「んで、初詣どうするんだ?行くのか?」
「家族では行かないみたいだけど」
「ん、じゃあ皆で行くか」
「「えっ」」


思わず振り向く少年と友人。死神が指すのは、自分自身と、少年と、友人。
それに気付いた友人は声をあげていた。


「お前と新年早々顔をあわせるのか?!」
「良い年明けになりそうだ、ふふふ」
「喧嘩はやめろよな」


不穏な空気が流れ始めた公園に、いきなり1人の人間が飛び込んできた。
そのまま人間にぶつかられた少年はよろよろと体勢を崩してしまう。


「うわっ!」
「今の話本当ですか私の王子様ー!」
「あ、あわわわ、そんな、人に突っ込んだら駄目だよ……!」


それは妙にハイテンションな少女と慌てるマキちゃんだった。またややこしいのが来たと友人は顔をしかめる。
しかし逆に死神は楽しそうだ。


「初詣の話の事かい?」
「そうそれ!あの!よければ私も一緒に行きたいなーとかキャー!」
「……と、いう事は、私も?!」
「え、一緒に行くの?」


少年が驚いて後ろに引っ付く少女を見れば、とても期待した目でブンブンと頷かれる。戸惑うマキちゃんもまんざらではなさそうだ。
少し困ったように少年は友人を見た。


「まだ行くとも言ってないんだけど……」
「俺に言うなよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれー!」


話がまとまらない内に新手がやってきた。傍らに可愛い白い犬ココロを連れた体育会系男だ。
どうやらランニングの途中でここに立ち寄ったらしい。


「お、むさ苦しい男」
「あーココロちゃんじゃない!元気してた?」
「キャンキャン!」


ココロを撫でる少女をでへでへしながら体育会系男は眺めている。その後我に返って少年に詰め寄った。


「あのキュートで可憐な子も行くのなら、是非おれも連れて行って欲しい!」
「え?!……っと……ど、どうしよう」
「だから、俺に言うなよ!こら言いだしっぺ!」


友人に睨まれて、楽しそうに傍観していた死神は1つ頷いて見せた。
そして、皆を代表して言う。


「集合は元旦の朝、うーん、日の昇る前が良いな。この公園に集まれ、以上」
「はーい!」
「じゃあ今から準備しなきゃ……!」
「うおー!ワクワクするなあココロー!」
「キャンキャン!」
「えっ行くの決定済み?!」
「しかも拒否権は無いのかよ!」


少年と友人が付いていけていないのを無視して、少女とマキちゃん、体育会系男とココロはそれぞれ楽しそうに解散していった。
その場に残されたのは、呆然と立ち尽くす少年と友人と、楽しそうに皆を見送る死神だけであった。


「……死神」
「ん?」
「……いや、何でもない。っていうか今更何も言う事ないし」
「そうか」


少年は諦める事にした。どうせ元旦は暇なのだ、ちょうど良かったかもしれない。
友人も素直に納得していない顔ではあるが、はあとため息をついてみせた。


「んじゃあ、親父達に言っておかないとなあ」
「大丈夫、自分がちゃんと監視しておくから、夜遊び暴走かつあげ等の危険は無いぞ」
「お前は保護者気取りか!……はあ、じゃあな、また元旦に」
「うん、良いお年を」


手を振る少年に片手を挙げて返した友人は、そのまま公園を1人で出て行った。
自分達も帰ろうと歩き出した少年は、すぐに振り返る。


「どうしたの死神?買い物が遅れると怒られちゃうよ」
「ああ、ちょっと待っててくれ」


スタスタと公園の隅に生えている木の元へ歩み寄った死神は、まるでそこに誰かがいるかのように話しかけた。


「君も行かないか?」
「誰が人間達と、さらにお前となんか行くか!」
「意地を張らなくても良いのに」


木の影から聞こえた声に死神は残念そうに首を傾ける。するとややためらいがちに声が返ってきた。


「……正直、朝日は昼間の光より駄目なんだ。日傘でも防げなくて……」
「それは仕方ないな。土産でも買ってきてやろう」
「トマトジュースを希望する」
「ニンニク入りでも探してみるか」
「お前は鬼か!」


叫ぶその吸血鬼の声を背中に聞きながら、待っていた少年と共に死神は家に帰っていた。





年明けから数時間後。
空がまだ暗い朝の公園。


「おーはようございまーす!そしてあけましておめでとうございまーす!」
「おっおめでとうございます」
「あ、おはよう、そしてあけましておめでとう」
「はよ。おめでと。にしても朝から元気だな……」


少女マキちゃん少年友人の順で挨拶をする。死神も一緒にいたのだが、しばらく考え込んだ後にポンと手を打った。


「年明けの挨拶か」
「言ったじゃんさっき起きた時に」
「ん、そうだった。あけましておめでとう」
「「おめでとう」」


改めて挨拶してから、寒さと眠気でテンションの低い友人がふと呟いた。


「そういや、何か足りなくないか?」
「……ああ、あの暑苦しい人がいないね」
「本当だココロちゃんがいない!」


体育会系男とココロがいないことに全員で今更気付く。何だか一番先に来ていそうな男だが、どこにもいない。
どうしようかと口を開きかけたその時、死神の足元で眠そうに座っていたコバが公園の入り口を見た。


「にゃあーん」
「ん?どうしたコバ」


死神がそう尋ねた一瞬後、答えは自らやってきた。


「やあおはよう!そしてあけましておめでとうー!」
「キャンキャウーン!」
「「来た」」


まるで今までずっと走っていたように良い汗を書く体育会系男は、良い笑顔で公園の外を指差した。


「皆遅いな!おれは一時間ほど前からここに来ていたんだぞ!」
「早いな!」
「嘘?!でも今までいなかったのに……」
「暇だったからランニングしてたんだ、な!ココロ!」
「キャンキャン!」


本当に今まで走っていたらしい。
あっけにとられている(というか呆れている)一同を見渡して、1人動揺していない死神が口を開いた。


「揃った事だし、行くか」
「きゃーっ!ワクワクするねマキちゃん!」
「そうだね、でも、どこの神社に行くのかな?」


マキちゃんの何気ない一言が死神の足を止めた。そのまま固まっているかと思ったら、くるりと少年を振り返ってくる。


「どこだ?」
「……うん、死神ってそういう奴だよね」
「照れるな」
「褒めてない!」


結局、6人と2匹は一番近くにある神社に行く事にした。

まだ日は昇っていないが、やはり人は多い。皆白い息を吐きながら藍色の空の下、神社へと歩く。
神社は少し遠くの道の向こうにあるのだが、その道は人に埋もれて見えなかった。


「人多いね」
「これじゃ神社まで辿り着けないぞ」
「なんのー!人を掻き分け先に進めば!」
「迷惑でしょ止めなさいっ!」
「は、はい!」


やむなく道の端へ寄る。そのまま立ち尽くしていると、死神がふとどこかを見上げているようなのに少年は気が付いた。


「どうしたの?」
「うむ……あそこにも神社があるのか?」
「えっ?」


指の差された方を見れば、少し出っ張っている程度の小さな山の上に……小さな鳥居が木々の間に見えたのだ。
確かに神社はありそうだが、あんな奥まった所にあるものだろうか。


「神社……みたいだけど」
「あそこ、誰もいなさそうね!あそこに行かない?」


少女がチャンスとばかりに提案してきた。このままじゃこの先の神社には辿り着けそうも無いので、少年も頷いた。


「それがいいかもね」
「あっ同じ意見?!どうしようマキちゃんこれって相性が良いってことよね!」
「うんでも結構皆同意見だと思う」
「んじゃあ行くか」


さっさと歩き出した友人をコバとココロが追い越す。2匹は仲が良いようだ。
ちらりと見えた神社への道は、むき出しの地面がほとんど草に覆われた非常に細い道だった。
こけないように皆細心の注意を払って歩く。


「私が転んだら手掴んでもいいですか!」
「えーっと、同時に僕も転ぶと思う」
「よそ見していると本当にこけるぞ。お、ここから階段になってるな」
「死神!何いつの間に一番先を歩いてるんだ!俺の前を歩くな!」


木の板が埋め込まれた階段を騒ぎながらしばらく上れば……ついた。
あちこちボロついているが、小さな神社が目の前に現れた。


「はー!やっとついた……」
「本当に小さい神社だな」
「あっでも何かこういう雰囲気好き!」


息をつく皆から離れて、死神はツタの巻く鳥居の前に立つ。そして神社を見つめて、


「少し、ここを借りるよ」


そうやって話しかけた。まるで、神社の主に語りかけるように。
返事が返ってきたのかはわからないが、死神は満足そうに元の位置へと戻った。
そこでは少年と友人、少女とマキちゃんが、今にも太陽が昇りそうな空を見つめている。


「初日の出に何か願い事すると、叶うらしいよ」
「えっ本当マキちゃん!よっしゃあ今年こそラヴラヴに!」
「こっ声大きいよ!」


何やら叫ぶ少女とマキちゃんに呆れた視線を向けながらも、友人は少年に話しかけた。


「お前は何か願い事あるのか?」
「うーん……そっちは?」
「自分は今年も沢山美味しいプリンが食べられますように」
「お前には聞いてない!ってか早いんだよ願うのが!」


手を合わせる死神に今にも蹴りつけそうな友人を少年が慌てて押さえ込む。
と、その時、いつの間にかいなくなっていた体育会系男が階段を駆け上がってきた。手に何かを持って。


「非常に寒いから、これを買ってきたぞー!」
「えっ、何?」
「食べ物?ちょうどお腹すいてたのよね」
「どうぞどうぞ!」


体育会系男は、最初に少女にカップを手渡した。その他の人にも渡している間に少女は中身を確認してみる。
中身は、甘い匂いの漂う白い飲み物だった。


「……あっ!甘酒!」
「そう!やはり初詣といったら甘酒だ!」
「酒なのか?」


甘酒を手に首を傾げる死神を見て、少年は友人に尋ねた。


「甘酒って、酒は入って無いんだよね?」
「ん?ああ、多分。でも酔うやつもあるらしいぞ」
「えっ嘘!じゃあこれどっちなんだろう……って飲んでるし!」


死神は甘い匂いに誘われて、少年の話も聞かずに飲み干していた。やはり甘党なのか。
味わうように目を閉じた後、死神は言った。


「美味い」
「……えっと……大丈夫?」
「うむ、美味い」


一見大丈夫そうに見えるが……。
それを見て安心したのか、少女も友人も甘酒を飲む。一歩遅れて少年もマキちゃんも飲んだ。


「あ、美味しい!」
「本当だ、体暖まるねー」
「うえ、ちょっと甘すぎないか?」
「そうかなあ、辛党だからじゃない?あはは」
「そうかー」


残りを飲みきろうとした友人は、それを止めてもう一度少年を見た。
少年は何だか幸せそうに笑っている。そう、笑い続けている。


「……お、おい」
「あははは、何?」
「お前……何か顔赤くないか?」
「そうかな普通だよあはははははは」
「いややばいってお前そんなに笑うキャラじゃないだろ!しっかりしろ!」


友人が少年の肩を掴んで揺さぶりながら慌てて周りを見てみる。
すると少女は、


「あ、何か今ならどんと告白しちゃったりなんちゃったり出来そうな気分ー!」


さっきよりハイテンションになっており、マキちゃんは、


「わっ私だって好きでただの脇役やってるわけじゃないもん……!」


泣いていた。友人が睨みつけるように体育会系男を見る。


「おい!」
「あっおれ成人してるけど、そうだった!皆未成年だったな!失敗失敗!」
「お前成人してたのか!これどうしてくれるんだよ!酔ってんじゃねえか皆!お前もほろ酔い加減だし!」


普段よりカッカしている自分に気付かず友人は怒鳴る。今度はまだ笑っている少年の肩越しに死神をにらみつけた。


「お前も気付かなかったのかよ死神!」
「自分は美味いとしか言ってないからな。んー……しかし足りないな」
「甘いものなら何でもいいのか!」
「いや、アルコールが」
「酒豪かてめえ!」
「死神甘いもの食べるくせにお酒も大丈夫なんだあはははは」


その場は混乱に包まれた。コバとココロ、そして死神以外は、笑ったり怒ったり泣いたり叫んだり忙しそうだ。


「えーい告白しちゃえー!好きです私と同じ墓に入ってください!」
「あははは本当に告白しちゃったよあはははは」
「墓ならおれと一緒に入りましょうよ!」
「お前らいい加減にしやがれ!」
「私何もしてないのに何で怒られなきゃいけないのようっうっうっ」
「皆よくこれだけで酔えるなあ」


妙に感心しながら死神は甘酒を飲む。足元には、巻き込まれないように避難してきたコバとココロが寄り添っている。


「大変だな」
「にゃあーん」
「クーン」
「ん、そうだ、これを土産にするか。ふふふ」


何やら楽しそうに笑った後、死神は目を細めて山の向こうに目を向けた。
そこには……。


「今年も、楽しいものになりますように」


その願いを聞いていたのは、昇ったばかりの太陽だけであった。


何だかんだ言って楽しそうに騒ぐ小さな広場に、新年の光が広がる。
それを眺めながら、1人死神は楽しそうに笑っていた。



今年も、よろしく。

05/01/01
















あけましておめでとうございます死神と少年正月スペシャル!
の提供でお送りしました。いつの間にこの人たちこんなに仲良くなったんですかね。
本当に酔う甘酒もあるらしいですよ。一杯でこんなに酔うものではなさそうですが。
ちなみに某吸血鬼は友情出演です。実は神社の方も、微妙に友情出演です。

ちなみにいつも通り99%意味の無いフリーとなっていました。連絡下さったら今でもフリーです。微妙。



おまけ@
おまけA