「いない!さっきここら辺で見かけたのにもういない!」
「クーン…」
いきなり飛び出してきた男は、忙しそうに周りを見回していた。ずっと走っていたのか僅かに息が乱れている。
しかし傍らの白い犬の方は、男よりも疲れた様子だった。
「くそーっ!偶然に見せかけた運命の出会いだったというのに!」
「…世の中には色んな人間がいるものだ」
1人で勝手に地団駄踏み出す男を見て、死神がしみじみと言う。
その足元では、白い犬とコバが目線を合わせて親しそうに鳴いた。
「!キャンキャン!」
「ニャアーン」
「どうしたコバ、このお嬢さんと知り合いか」
「ニャン」
「そうか、飼い犬は飼い主に似るというが、例外もあるものだな」
賢そうな白い犬の顔といかにも体育会系な男の顔を見比べての死神の正直な感想。
と、そこで男はやっと死神とコバの存在に気付いた。
「はっそうだ!あそこに立っている鎌を持った黒く怪しい人に尋ねてみるぞココロ!」
「キャン!」
「ちょっとすいませんそこの人!」
「何だい、いかにも学生時代は部活一直線で授業はイマイチそうな見知らぬ男子」
男は死神の言葉につっこむ事なく尋ねてきた。
「ここら辺で、可憐でキュートでプリティな女の子を見ませんでした?」
「かつて見たこと無いな、そこまで完璧な娘は」
「そうですか…ありがとうございました…」
男はがっくり項垂れて白い犬に抱きついた。
「恋は前途多難だなココロー!」
「クウーン」
「いやしかし諦めないぞ!もしかしたら、もしかしたらアレを貰えるかもしれないのだからっ!いくぞココロ!今度はあっちだ!」
「キャンキャン!」
すぐさま走っていってしまった男を、死神はしばらく見つめてからコバに尋ねた。
「…彼は何を貰う気だったんだ?」
「ニャアン?」
考えても仕方ないと思ったので、死神は肩をすくめて再び歩き出した。
○そろそろ夕飯時だから帰ろうかな
○ああそうだ、そういえばおつかい頼まれてたような