「卵、ケチャップ、ソーセージ、玉ねぎ、今日はオムライスか、大好きだ」
「ニャーン」


テクテクと商店街を歩きながら死神は手元のメモを眺めていた。死神は卵料理が好きなのだ。
死神が良い玉ねぎを選んでいると、横から何者かの視線を感じた。
ちらっとそちらに振り向いてみると、目を丸くしながらこっちを凝視している学校帰りの娘が1人。


「…!かっ鎌持った黒い服の人間って…!まさか、あの時言ってたライバルの死神ってこの人なんじゃ…!」


その娘の名はマキちゃんと言うのだが、死神が知る由も無い。コバも不思議そうにマキちゃんを見つめている。


「本当にいたんだライバル…!っていうか死神…?!見た目はそうだけど…!」


マキちゃんは、傍から見たら怪しい事この上ない言動で死神を観察していた。
死神はとりあえず選んだ玉ねぎを店のおばちゃんに持っていっている。


「あの人男だよね?な、何であんな人とライバルになっちゃったの?しかも…」


そこでまたマキちゃんはチラッと玉ねぎを袋に詰めてもらっている死神を見た。


「ちょっとカッコいい人じゃん!一体どんな経緯でライバルになったのー?!」
「…もしもしそこの人」


玉ねぎを買い終わった死神にいきなり声をかけられて、マキちゃんはビックと飛び上がった。


「な、ななな何ですかっ?!」
「いや、さっきからこっちを見てるから何か用でもあるのかと思ったんだが」
「何も無いですはい!そ、それじゃっ!」


慌しく去ってしまったマキちゃんを、死神は半分呆然としながら見送った。


「…今日は変な人たちが多いな…」
「ニャーン」
「ん?」


そこで死神は、ある店の前にこう書かれているのを目にした。

『聖バレンタイン』


「バレンタイン…?」


聞きなれない言葉に首を捻りながら、死神は残りの買い物を済ませていった。


○さあ、帰ろう