「あっあのっ!」
「ん?何か用か?」


その娘の顔に見覚えが無くて、死神は内心首をかしげる。
いきなり現れた娘は、顔を伏せたまま震える手で何かを差し出してきた。


「…?」
「あの!この道をいつも通ってますよね!」
「…ああ、確かにここはいつも通ってるな」


この道は、死神のいつもの散歩道だ。真っ直ぐ行くと、死神の特等席がある橋があるのだ。


「その姿、いつも見てました!それで…!その…!これ、受け取って下さい!」
「これ?」


娘の必死さに、死神は思わず差し出されたその包みを受け取っていた。
その瞬間、娘はキャーッとかいう悲鳴を上げながらすぐさま走っていってしまった。


「…何だったんだ…?」
「ニャア?」


コバも不思議そうに死神と、死神の持っている包みを見上げる。
その視線に気付いて、死神は改めて自分の手元にある小さな包みをじっくりと観察してみた。


「これは…中身は何だろうな」
「ニャアーン」
「よし、開けてみるか」


少しの躊躇いも見せずに死神はパラリと包みを開けてみる。中から出てきたのは、前に少年から貰った事があるお菓子で。


「…チョコレートか」


丸い形のそれを1つつまんで食べてみる。口の中に、ほどよい甘さがじんわりと広がる。
死神は、チョコレートというお菓子をなかなか気に入っていた。


「貰えたのは嬉しいんだが、何故見知らぬ娘がチョコレートを?」
「ニャン」


疑問が解決される事が無いまま、死神はチョコをかじりつつ再び歩き出した。


○そうだ、橋で空を眺めよう
○そろそろ夕飯時だから帰ろうかな