空色キャンバス2周年特別童話  *おやゆびひめ*



●キャスト

おやゆびひめ … シロ

女の人 … ダイアナ

父カエル … あらし

子カエル … カロン

魚 … ウミ

ちょうちょ … 少年

コガネムシ … クロ

ねずみ … 華蓮

もぐら … 死神

ツバメ … 大地(とねぐせアレス)

王子 … ジャック





   むかしむかし、ある所に、1人の女の人が暮らしていました。
   女の人には、子どもがいませんでした。


女の人「子どもの前に夫がいないでしょ!何歳なのよこの女、私寂しい独身女の役ってわけ?!」


   女の人は、毎日「可愛い子どもが欲しい」と願っていました。


女の人「ちょっと待って順序が違うじゃない!まず夫手に入れなさいよ夫!どうやって子ども手に入れるつもりなのよ!」


   するとある日、女の人の前に神様が現れました。
   そう、神様が女の人の願いを叶えるために来てくれたのです。


女の人「神様がそんなちっぽけな願い叶えるわけ?!ちょっと、この女を甘やかしてるんじゃないの?!」


   神様は女の人に、1つの花の種を与えました。
   女の人は花の種を植木鉢に植え、毎日大切に大切に育てました。


女の人「女疑問持ちなさいよ!何で子ども欲しがって花の種貰ってるのよ!それごまかされてんのよ神様に!」


   やがて種が芽を吹き赤い花を咲かすと、何と花の中から可愛らしい女の子が出てきたではありませんか。


女の人「終わりよければ全てよしってやつなの?!人生間違ってるわよ女!」

女の子「うー出てきたそうそううるさいわー」


   女の子は親指サイズだったので、女の人は「おやゆびひめ」と名づけ、自分の子どもとして育てる事にしました。


女の人「そのネーミングセンスどうなのよ!大体そんな小さい子どもをよく自分の子どもだと思えるわね?!」

おやゆびひめ「そんな事どうでもいいからー何か食べ物ちょうだーい!お腹すいちゃったー!」

女の人「……まあ食費はかからなそうだしこれお芝居だし、仕方ないわね……」


   おやゆびひめはその可愛い顔に似合わず、とてもよく食べました。


おやゆびひめ「おかわりー!まだまだ全然足りないわー!」

女の人「私が甘く見ていたわ!何よこの子胃袋がブラックホールに通じてるんじゃないの?!」

おやゆびひめ「えへへーよく言われるー」

女の人「自粛しなさい!」


   女の人はおやゆびひめを大切に育てました。
   そんなある日の夜、窓辺におやゆびひめがクルミのベッドで寝ていると、誰かがやってきました。


父カエル「本当は母カエルらしいんだけど男女比率の関係で父になったカエルでーす」


   それはカエルでした。カエルは窓の隙間から侵入しておやゆびひめに近づきました。


父カエル「わーなんて可愛い子だろう。うちのヒヨコ……じゃなかった息子の嫁さんにしちゃおう」


   カエルはベッドごとおやゆびひめを持ち上げると、自分のおうちへ持って帰ってしまいました。
   住処としている沼地に帰ると、カエルはさっそく息子におやゆびひめを見せました。


父カエル「どうだ僕より大きい息子、話の都合上おやゆびひめを持って帰ってきてしまったよ」

子カエル「うわーおいらより小さなお父さん、この子がおいらのお嫁さんっすか?」

父カエル「正直、食費がかかるから僕的にはおすすめできないんだけどね」

子カエル「すすめられないのに持って帰ってきたんすか?!」

父カエル「しょうがないだろここで連れてこないと話が進まないんだから!」

子カエル「ここでそんな事言っていいんすか?!」

父カエル「まあ、毎回だし」

子カエル「定番だった!」

父カエル「それじゃ、僕らが食べられないようにちょっと離れた所に置いておこう」

子カエル「そんな危険な子をお嫁さんにするんすかー?!」


   父カエルは、おやゆびひめが逃げないように川の真ん中のハスの葉っぱにおやゆびひめを置いて去っていきました。
   うちの中におやゆびひめを招き入れるための準備をするためです。
   朝になっておやゆびひめが目を覚ますと、父カエルが子カエルを連れて現れました。


おやゆびひめ「うー……あれーここどこー?」

父カエル「おはようおやゆびひめ」

おやゆびひめ「あっおはようー!あら……カエルさんー!朝ごはんはまだかしらー?」

子カエル「えーっ!今いる場所より朝ごはんの心配するんすか?!」

おやゆびひめ「もちろんよー!それがあたしだものー!」

子カエル「自覚してた!」

父カエル「えーっとさっそくだけど、このヒヨコ……じゃなかった子カエルのお嫁さんになることになりました」

おやゆびひめ「あなたとー?」

子カエル「よ、よろしくっす」

おやゆびひめ「……ヒヨコ饅頭ー……」

子カエル「ロックオン!確実にロックオンされてる!おいら食われるー!」

父カエル「落ち着け息子!早く逃げろ!」

子カエル「今食われるんすかー?!」

おやゆびひめ「あっまってよー!」


   父カエルと子カエルは泳ぎ去ってしまいました。おやゆびひめは一人ぼっちです。


おやゆびひめ「ちぇーっ、ちょっとぐらい味見させてくれてもいいのにー」

子カエル「うっ嘘だー!絶対そのまま食べる気っすよこの子!」

父カエル「まあヒヨコだしね」

子カエル「今はカエルっすよ!」


   するとそこへ、水中から何かが顔を出してきました。お魚さんです。


魚「おやゆびひめ、無事か?」

おやゆびひめ「あっウミー!じゃなかったお魚さんー!あたしは全然無事よー?」

魚「じゃなくて、あのヒヨコ」

おやゆびひめ「無事じゃないわー。食べられなかったのー残念ー」

魚「そりゃよかった。さっそくこのハスの葉っぱの根元噛んで逃がしてやろう」

おやゆびひめ「えーまだヒヨコ食べてないー」

子カエル「お魚さーん!早くそのハスの葉っぱ流しちゃって欲しいっすー!」

魚「遠くから声が?!」


   カエルのお嫁さんにされてしまうのが可哀想で、魚はおやゆびひめを逃がす事にしました。


魚「てことだから我慢してくれ!」

おやゆびひめ「ちぇーっ」


   魚はハスの葉っぱの根元をガブガブと噛み千切りました。
   するとハスの葉っぱは、川に流されてカエルの手の届かない所に行ってしまったのです。
   これでもう安心です。


魚「よしこれでいい、達者でな、おやゆびひめ」

おやゆびひめ「えーっお魚さんは一緒にいかないのー?」

魚「いや俺には俺の住処があってな……」

おやゆびひめ「いいじゃないー!途中でお腹すいたらあたしどうすればいいのよー!」

魚「やっぱり俺は非常食なのか?!」

おやゆびひめ「だってそれがウミじゃないー」

魚「俺は非常食のためにここにいるんじゃなーい!」

おやゆびひめ「あーっまた逃げられたー!けちー」


   川に流されるおやゆびひめはまた1人になりました。
   すると頭上から、ひらひらと一匹のちょうちょが降りてきました。


ちょうちょ「あ、よく食べる子が流されてる」

おやゆびひめ「あー!地味なちょうちょさんだー!」

ちょうちょ「どうせ僕は地味だよ!ちょうちょになっても地味だよ!」

おやゆびひめ「ちょうどよかったー!このハスの葉っぱを引っ張ってほしいのー」

ちょうちょ「えっ何で?今だって流されてるからそれでいいじゃん」

おやゆびひめ「早く行かないとーお腹すいちゃうでしょー!」

ちょうちょ「そうだね……僕まで食べられたくないから運んであげるよ……」


   おやゆびひめはちょうちょとハスの葉っぱをリボンで結び付けました。
   こうしてハスの葉っぱは、ちょうちょのおかげでぐんぐんとスピードを上げて進んでいきました。


おやゆびひめ「きゃーっすごいすごーい!もっと早くー!」

ちょうちょ「もっと?!すごい度胸あるね君?!」


   おやゆびひめがちょうちょと楽しく川を流れていると、何者かがやってきました。
   それはコガネムシでした。コガネムシは一目でおやゆびひめを気に入ってしまったのです。


コガネムシ「っていうかオレ飛んでるー!?ぎゃーっ高いじゃねーか死ぬー!」

ちょうちょ「あんな所に怖がりながら飛んでる奇妙なコガネムシがいるけど……」

おやゆびひめ「本当だわークロも無理しなくていいのにー」

コガネムシ「えーいこんな機会一生ねえんだからやってやるってのー!おらおらー!」

おやゆびひめ「きゃー!」


   コガネムシは可愛いおやゆびひめを掴んでさらってしまいました。
   残されたちょうちょはハスの葉っぱと一緒に流されていくだけでした。


ちょうちょ「あっ僕つながれたまんまじゃん!だ、誰かー!」

おやゆびひめ「ごめんねーちょうちょさんー頑張って流されてねー」


   コガネムシは木の上へとおやゆびひめを連れて行きました。


コガネムシ「あー怖かった!死ぬ!もしかしてもうオレ死んでんじゃね?」

おやゆびひめ「大丈夫よー生きてるわよー!」

コガネムシ「ま、マジか?よかったー!」


   コガネムシがおやゆびひめの愛らしさにメロメロになっていると、


コガネムシ「な、なってねーよメロメロになんて!」

おやゆびひめ「あ、顔赤いー」


   他のコガネムシの仲間達がやってきて、口々に言いました。


仲間達1「何だよこいつ足が2本しかないじゃん!」

仲間達2「触角も無いじゃん!」

仲間達3「こいつコガネムシじゃないじゃん!」

仲間達4「ブサイクじゃん!」

コガネムシ「な、何だとー!何言いやがるんだてめえら!殴るぞこら!」

おやゆびひめ「暴力は駄目よー!えきすとらって人たちなんだからー!」


   仲間達が口々にそういうので、コガネムシもおやゆびひめがブサイクだと思ってしまいました。


コガネムシ「思わねえよ!オレは思わねえよ全然!」

おやゆびひめ「別にあたしはどっちでもいいけどー」

コガネムシ「いいや駄目だ!オレが許さねえ!こらナレーター何てこと言いやがるんだ!シロに謝れ!」


   そこでコガネムシは、おやゆびひめを地面に置き去りにしてしまいました。


コガネムシ「無視かこの野郎!誰が置き去りになんかするかってんだ!」

おやゆびひめ「でもしないといけないんでしょー?」

コガネムシ「オレはやらねえよ!へーんだ!」

魚「こら!早く地面に置き去りにするんだ!」

ちょうちょ「そうだよ早くしないと話終わんないじゃん!帰れないじゃん!」

コガネムシ「川の方からつっこみが?!っちくしょーやりゃあいーんだろうがやりゃあ!」


   そこでコガネムシは、おやゆびひめを地面に置き去りにしてしまいました。


コガネムシ「ほらよ!頑張って生きろよシロー!オレは本気でやったんじゃないんだからなー!」

おやゆびひめ「分かってるわよそんなことー!」


   こうしてまたおやゆびひめはまた1人きりになってしまいました。


おやゆびひめ「うーとにかくお腹がすいたわー何か食べ物ー」


   毎日おやゆびひめは自分で食べ物を見つけて暮らしていました。
   しかし、実りの夏が過ぎ、秋が来て、そして冬がやってきてしまいました。


おやゆびひめ「いきなり冬なのー?!寒いじゃないー!」


   小さな小さなおやゆびひめは可哀想に、寒さに震えながら歩いていました。


おやゆびひめ「寒いのもいやだけどー1番いやなのはお腹がすいたことよー!お腹すいたー!」


   お腹をすかせておやゆびひめが歩いていると、目の前に一軒の家を見つけました。
   何日も何も口にしていないおやゆびひめは、必死に戸を叩きました。


おやゆびひめ「お願いーお腹すいたのー何か食べ物ちょうだいー」

ねずみ「おやおや、可哀想に」


   家から出てきたのは、優しいねずみのおばさんでした。


ねずみ「ちょっと、誰がおばさんですか失礼じゃないですか、訂正しなさい。さもないと……」


   家から出てきたのは、優しいねずみのお姉さんでした。


ねずみ「よろしい。……さて、可哀想ですから家に入れてあげましょう」

おやゆびひめ「わーいありがとうー!」


   ねずみのお姉さんは、おやゆびひめにお腹いっぱい食べ物を分け与えました。


ねずみ「あなた食べ過ぎるんですからこれぐらいで我慢しなさい」

おやゆびひめ「えーん全然お腹いっぱいじゃないわよー」


   お腹いっぱいになったおやゆびひめは、ねずみのお姉さんに今までの出来事を話して聞かせました。
   するとねずみのお姉さんは、おやゆびひめを可哀想に思いました。


ねずみ「仕方がありませんね。冬があけるまでうちに置いといてあげましょう」

おやゆびひめ「えーっいいのー?」

ねずみ「その代わり、お手伝いはちゃんとするんですよ」

おやゆびひめ「任せてー!」


   こうしておやゆびひめは、ねずみのお姉さんのうちで冬を過ごす事になりました。
   おやゆびひめはねずみのお姉さんへの恩返しのために、一生懸命にお手伝いをしました。
   一生懸命にお手伝いをするととてもお腹が空くので、おやゆびひめは毎日たくさん食べました。


ねずみ「覚悟はしていましたけどやはり食費が馬鹿になりませんねこの子は……」


   そんなある日の事、ねずみのお姉さんがおやゆびひめに言いました。


ねずみ「おやゆびひめ、今日はお客さんが見えますよ」

おやゆびひめ「お客さんー?だれだれー?」

ねずみ「私よりお金持ちの方なんですよ。金だけ大量に持っているだけの男ですが」

おやゆびひめ「お金持ちの人ねー!」

ねずみ「そうです、金しか能の無い男です。他にとりえといったら黒いだけです。金以外いらない男ですね」

おやゆびひめ「ねずみのお姉さん目が怖いわー……」

ねずみ「まあそういう訳ですから、あなたがそいつのお嫁さんになったらきっと一生楽して暮らせますよ」

おやゆびひめ「えーお嫁さんー?」

ねずみ「金持ってるんですから食費だってたいした負担にならないでしょうそうでしょうおまけに玉の輿ですようっふふふ」

おやゆびひめ「えーでもー」

ねずみ「ご飯食べ放題ですよ」

おやゆびひめ「やったーお金持ちさん最高ー!」


   お金持ちのご近所さんは、もぐらでした。黒いコート……ではなく黒いマントに身を包んでやってきました。


もぐら「じゃーん。もぐら参上ー」

ねずみ「いりません出て行きなさい」

もぐら「さっきと言ってる事が違うんだが」

おやゆびひめ「お金持ちさんようこそー!食べ物ちょうだーい!」

もぐら「うーむ初対面でいきなりものをたかるとは、なかなか度胸のある娘だなあ」


   もぐらは人目でおやゆびひめの事を気に入ってしまったようでした。


もぐら「今回のナレーションはいつに無く強引なんだな」

ねずみ「という訳だからこの子を嫁に貰いなさい」

もぐら「いやしかしさすがに度胸だけで嫁には」

ねずみ「今ならプリンがつきます」

もぐら「交渉成立だ」


   もぐらとねずみのお姉さんは何やら怪しい取引をしていましたが、おやゆびひめは気付きませんでした。
   もぐらは、おやゆびひめを連れて自分の掘ったトンネルへとやってきました。
   もぐらの家とねずみのお姉さんの家をつなぐトンネルでした。


もぐら「この穴は全部自分で掘ったんだ。鎌で」

おやゆびひめ「鎌で穴掘れるのー?!」

ねずみ「嘘をおっしゃい嘘を」


   すると、真っ暗なトンネルの中間の天井に、ぽっかりと1つの穴が開いていました。
   日の光がこぼれる地面の上には、ひとつのうずくまる生き物がいたのです。
   それは、一匹のツバメでした。


もぐら「おや、はぐれツバメかな。空から落ちて天井を突き破ってしまったようだ」

ねずみ「みすぼらしい鳥ですね」

おやゆびひめ「えーっ鳥さん?ツバメさんー?」


   何故かねぐせのついたツバメは、死んでいるのか気を失っているのか、硬く目を閉じたままでした。


ツバメ「ぐーぐー」

ねぐせ「おーいツバメよ、本気で寝るなよー」

おやゆびひめ「ねー、あのツバメさん、生きてるわよねー?」

ねずみ「しっ、かまうんじゃありません。たとえいびきが聞こえてもあれは死んでるんですそういう事にしておきましょう」

もぐら「ねぐせが今喋って」

ねずみ「だからかまうんじゃありません!」


   ツバメを無視してもぐらもねずみのお姉さんも先に行ってしまいましたが、おやゆびひめは気になって仕方ありませんでした。
   そこに立ち止まると、心配そうにツバメの傍に近寄ります。


おやゆびひめ「ねーねーツバメさんー、大丈夫ー?」

ツバメ「ぐーぐ……はっ!うあーしまった!おれいつの間にか寝てたぞー!」

ねぐせ「大分寝てたぞ」

ツバメ「何で起こしてくれなかったんだよねぐせー!」

ねぐせ「起こしたぞ俺は!何度も!起きなかったのはお前だ!」

おやゆびひめ「よかったー大丈夫そうねー」


   どうやらツバメは気絶していただけのようでした。
   ツバメは顔を上げると、おやゆびひめを見つめました。


ツバメ「あ、起こしてくれてありがとなー!」

おやゆびひめ「あたし何にもやってないわよー。どうしてこんな所で寝ちゃってたのー?」

ツバメ「えーと……何でだったっけ……」

ねぐせ「冬が来るから南の方へ飛んでいかなきゃいけない所で翼を怪我して落っこちたんだろ」

ツバメ「そうそう!それ!」

おやゆびひめ「えー怪我しちゃったのー?可哀想ー」

ツバメ「そうなんだ飛べないんだー。えーっとえーっとそれから」

ねぐせ「今外は冬でとても寒いから出るに出れないんだろ」

ツバメ「そうそう!それだ!」

おやゆびひめ「ますます可哀想ねー。あたしがお世話してあげるー!」

ツバメ「えっ本当?!うおー優しいなおや子!」

ねぐせ「何でまたそんなニックネームにしちゃうかなお前は」


   おやゆびひめは、ねずみのお姉さんともぐらに内緒で可哀想なツバメのお世話をしてあげる事にしました。
   ねずみのお姉さんももぐらもツバメの事が気に入らないようなので、見つかったら大変なのです。


もぐら「気に入らないのは君だろう」

ねずみ「いえいえそんな事は。ボロッちい鳥がトンネルの途中を邪魔していてもそんな気になりませんよええ」

もぐら「自分だって楽しいプリンタイムを邪魔しなければ別に何でもない」

ツバメ「何か怖いぞねぐせー!」

ねぐせ「耐えろ、今は耐えるんだひたすら!」


   おやゆびひめはツバメに毛布を持ってきてあげたり、ご飯を分けてあげたりしました。
   心優しいおやゆびひめは、ツバメの怪我が治るまでずっと面倒をみてあげたのでした。


ねぐせ「ご飯まで分けてくれるなんてなー」

ツバメ「すごく優しいなー!」

おやゆびひめ「おっきくなったらとっても美味しそうなツバメさんねーうふふー」

ツバメ「ねぐせぇー!」

ねぐせ「泣くなツバメ、耐えるんだ!俺たちには耐えることしか出来ないんだ!」


   やがて冷たい冬が過ぎ、暖かな春がやってきました。
   その頃にはツバメの怪我もすっかりよくなっていました。
   そう、とうとうツバメとの別れの日がやってきてしまったのです。


ねぐせ「ああ、食べられずに無事旅立つ事が出来るみたいだな」

おやゆびひめ「残念ねー、もう少しだったのにー」

ねぐせ「危機一髪?!」

ツバメ「それじゃ、おれもう行くなー?ついでだからおや子も連れて行ってもいいぞー」

おやゆびひめ「うーでもー……もぐらさんのごちそうまだ食べてないからいいわー」

ツバメ「そっかー、それじゃ仕方ないかー」

ねぐせ「今までありがとうな、達者で暮らせよ娘っ子!」

おやゆびひめ「あなたたちも元気でねー!」

ツバメ「おう!それじゃまたなー!」


   ツバメは青空へと高く高く飛んでいってしまいました。
   おやゆびひめは少し悲しそうに、それを見送りました。

   それから何日か経ったある日、ねずみのお姉さんがおやゆびひめに言いました。


ねずみ「あなたはあのもぐらと結婚しなさい」

おやゆびひめ「えーけっこんー?」

ねずみ「あなたの事を心底気に入ったという事になってます。嬉しいでしょう金持ちですから」

おやゆびひめ「うーでもー本当に食べ放題なのー?」

ねずみ「そうですねきっとそうですよ」


   おやゆびひめはちょっと嫌でした。何故ならもぐらは太陽が嫌いなのでずっと土の中にいるからです。
   つまり、結婚してしまうと、おやゆびひめも外には出れなくなってしまうのです。


おやゆびひめ「ねーねー本当に外に出ちゃだめなのー?」

もぐら「うん、黒が好きだからな」

おやゆびひめ「日陰にいればいいじゃないー」

もぐら「少しでも黒い方がいいんだ」

おやゆびひめ「ふーん。食べ放題だからしかたないかしらー……」

もぐら「あ、でもプリンはあげないよ」

おやゆびひめ「えー嘘ーっ?!」


   おやゆびひめは心底結婚したくなくなりました。
   しかしねずみのお姉さんは許してくれません。どうしてもおやゆびひめを結婚させるつもりです。
   おやゆびひめは毎日悲しみながら、しぶしぶ結婚式の準備をしました。

   そして、またあの冷たい風がやってくる前の、秋の頃。
   いよいよ、結婚式当日になりました。
   最後の最後に、おやゆびひめは太陽に別れを告げるために、外に出ました。


おやゆびひめ「ううー食欲の秋なのにプリンが食べられないのねー……悲しいわー……」


   その時でした。空からバサッと1つの影がおやゆびひめの目の前に降り立ってきたのです。
   それは、あの日のツバメでした。


ツバメ「やーっ!お久しぶりだなー!」

おやゆびひめ「あれー美味しそうなツバメさんじゃないー!どうしたのー?」

ねぐせ「いや食べられに来た訳じゃないんだけどな」

ツバメ「これから南の国に行くんだ!また冬が来て落ちちゃう前に!」

おやゆびひめ「そうねー怪我しちゃ大変だわー。でも何で降りてきたのー?」

ツバメ「だっておや子が何か寂しそうな顔してたから一緒に行かないかなーと思って!」

ねぐせ「食われる瀬戸際だっていうのに良い奴だよなーお前は」

おやゆびひめ「南の国ってー食べ物たくさんありそうねー!行く行くー!」

ツバメ「それじゃ背中に乗って!」


   おやゆびひめはツバメの背中にしっかりとしがみつきました。
   ツバメは翼を大きく広げて、大空へと飛び立ちました。


おやゆびひめ「きゃー!気持ちいいー!」

ツバメ「このまま真っ直ぐ南の国だぞー!」

ねぐせ「背中から食うなよ?食うなよ?食ったらお前も落ちるからな?」

おやゆびひめ「分かってるわよーついてからねー」

ねぐせ「落とせ!今のうちに落としてしまえツバメ!」

ツバメ「あ、南の国だ!」

ねぐせ「早いな?!」


   南の国は、たくさんの美しい花が咲き乱れたとても綺麗な国でした。
   その中の真っ白な宮殿の近くにツバメはやってきました。


ツバメ「花の上に降ろしてあげるよーどれがいい?」

おやゆびひめ「1番美味しそうなお花!」

ツバメ「あれでいいかなー?」

ねぐせ「本当にお前は良い奴だよ……」


   ツバメはおやゆびひめを大きなお花の上に乗せました。
   するとおやゆびひめはびっくりしました。何故なら、花の中に人がいたからです。
   それは、花の妖精の王子様でした。


王子「ジェジェーイ!南の国にようこそだジェーイ!」

おやゆびひめ「玉子ー?」

王子「玉子じゃないジェイ王子だジェイ!た、食べ物じゃないジェイ!」

おやゆびひめ「なんだー残念ー」


   王子様は、可愛いおやゆびひめを一目見て好きになってしまいました。


王子「ジェジェ?!好きになっちゃったジェイ?!こっ告白しなきゃいけないジェイ?!」

おやゆびひめ「食べ物くれたら結婚してもいいわよー」

王子「簡単だジェイ?!それでいいのかジェイ?!」

おやゆびひめ「オールオッケーよー!」

王子「じゃあよろしくお願いするジェイ!」


   おやゆびひめと王子様が見つめ合う中、花の妖精たちは2人を祝福しました。
   この国の住民は、皆背中に羽をつけているみたいです。
   そこでおやゆびひめにも羽がプレゼントされる事になったのですが。


王子「羽をプレゼントするジェイ!」

おやゆびひめ「あー、あたしね、赤い羽がいいわー!」

王子「ジェジェ?!すごく珍しいジェイ!どうしてだジェイ?」

おやゆびひめ「あのねー!あたしが生まれてきた花の色だからよー!」


   綺麗な赤い羽を貰ったおやゆびひめは、末永く幸せに暮らしたそうな。



父カエル「この物語はもう「おやゆびひめの食べ歩き物語」でいいんじゃないだろうか」

ねずみ「主人公がシロさんだったんですから仕方ない事ですよ」

ツバメ「おれ食べられなくてよかったー!」

ねぐせ「本当に危機一髪だったけどな」

子カエル「おいらも危なかったっすよ!丸呑みされるかと思った!」

魚「俺は毎日食われそうになってるわけだけどな……」

コガネムシ「それよりオレは王子役に不満ありまくりだぞ!何でこいつなんだよオレコガネムシなのに!」

王子「ちょ、ちょっとぐらい良い役貰ったっていいジェイ!」

女の人「私結局最初だけよ出番!食べ物たかられただけ!何あのあっけない役!」

ちょうちょ「あーうんもうどうでもいいと思うよたとえ流されたままでも」

もぐら「という事で、何の記念になったのかわからない空色キャンバス2周年記念だったとさ」

おやゆびひめ「めでたしめでたしー!これからもよろしくねー!」




   −めでたしめでたし−

05/11/07










空色キャンバスもいつのまにか2周年です。
2年の間に出会った様々な人達、それとこれから出会うであろうたくさんの方々、
そして今これを読んでくださっているあなたに、たくさんの感謝を。





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