好きという言葉



救えない。本当に救えない話だ。

それはまさに絶望的なものだというのに、彼は嬉しそうに笑うのだ。



「あんた、分かってるの?」

「うん」



私が何も話していないのに、彼は頷いた。それに構わずに私は続ける。



「あんたの好きな人には、もう相手がいるのよ?」

「知ってるよ」

「しかもその相手は知らないけど、その人は少なくとも相手にベタ惚れ。入る隙間も無いのよ?」

「うん、分かってる」

「それでも、その人が好きだって言うわけ?」

「言うよ」



私は何度もこうやって彼に言った。

その度に、彼は頷くのだ。とても幸せそうに。



「望みも、何も無いのに?」

「そうだね、望みはかなり薄い。でも」

「でも?」

「それで、いいんだ」

「はあ?」



私はかなり間抜けた声を上げた。この男は正気か?一体何が良いというのだ。

彼はというと、スッと目を細めて、心の底から幸せそうに言った。



「僕は、何があっても一途に相手を愛する彼女が好きなんだから」



私は、今度こそ呆れて声も出なかった。つまりこの男は、他の奴を愛する彼女が丸ごと好きだというのだ。

自分よりも他の相手を一生懸命愛する彼女が、好きだと。

それでは少しどころか、全く望みは無い。


きっと彼は、その彼女が幸せになるなら何だってするだろう。それが、彼の愛し方なのだから。

たとえ結ばれなくても、彼女が幸せならそれで良いのだ、彼は。


馬鹿げている。そんな思いを持たれている彼女はさぞかし大変だろう。

好きでもない人に勝手に思われていては申し訳なくてしょうがない。迷惑なだけだ。



しかし、彼は笑う。とても幸福そうに。



だから、私は彼に尋ねた。



「…ねえ」

「ん?」

「あんた今、幸せ?」

「――うん、幸せ」

「……そう……それなら」



私は、彼の幸せそうな横顔を見つめながら笑った。


……ああ、本当になんて救えないんだろう。



「私も、幸せ」



そうやってひたすら愛し続ける彼のことが、私は。

04/03/14











今回書きたかったもの。「純粋に思い続ける男とその人をさらに思い続ける女」
穴があったら入りたい……(赤面)