その場に立っていられなくなって、背中から思いっきり倒れてみる。


バフン。


倒れた瞬間、空に白い花びらが舞った。辺り一面白い花で埋め尽くされているのだからしょうがない。

クッションになってくれた花たちにお礼を言わなければ。



それにしても、ちらちらと顔に降ってくる花びらがまるで雪のようでとても綺麗だ。

雲ひとつ無いこの青空にとてもよく映える。




地面に体をぴったりくっつけて仰ぎ見ると、空が途方も無く大きいのが分かる。

視界いっぱいに青空が広がって、何処までも続いているようだ。上にも、横にも。



空は遠すぎる。だって、右手を精一杯伸ばしてみても、あの青に掠りもしないのだから。

何だか力が抜けて、顔の横に右手がパタンと落ちてきた。





そうだ、あの空は絶望的に遠い。広すぎて、深すぎて、届きもしない。


一度でいいから、あの空にのぼって、駆けてみたかったなあ。





喉から何かがこみ上げてきた。それは一気に喉を通って、口の中に入ってくる。喉の奥からゴボっと音がした。

やだなあ…。この景色が台無しになっちゃう…。


青と白の世界に、唐突に派手な色が混じってきた。

脈打つ生命の色。でも、この色は確実に私の残り時間を示していた。



少しせきをしながら花たちに謝ってみる。

ごめんね。あんたたちの綺麗すぎるその白い色、血色に染まっちゃったね。







目を閉じると、真っ先に浮かんできたのはあんたの顔だった。

満面の笑み。私もあんたと一緒によく笑ったよね。それを思い出したら、何だか今でも笑えてきた。

思い出ごときに笑えるんだから、私の人生も捨てたもんじゃなかったかも。




でもきっと、あんたは私の今の状態を知ったら怒るだろうね。

それとも、泣いてくれるだろうか。呆れた顔をするのかな。どんな顔でも思い浮かんでくるよ。




あんたを遠ざけたのは私だった。後悔なんてしてない。だって私が決めた事だもん。

こうやって広い地面の上で、広い空の下で、1人で逝くことを決めたのは他でもないこの私だ。



だってあんたの心に未練がましく残るのは嫌だった。

消えるのなら、誰の中にも残らずに綺麗に消えたかったの。



今この瞬間、私はきっと、この世と切り離された状態だろう。誰とも繋がっていない独りの状態。

私が今いなくなったことで、誰かの人生が変わる事は、きっと無い。



それが叶ったんだから、今、私はとても満足している。






でもね。

私ね、もう1つ、別の死に方に憧れてたんだ。


今とは正反対。昔笑いあったあの時あの瞬間、みんなの中で、死にたかった。

皆で大声で笑いあう中、その状態でコトリと、痛みも苦しみも無くあっという間に。



笑い声あふれる中天国にいけるのって最高じゃない?

そんな風に、死んでみたかったんだ。



でもそれは無理。だって、最後に見るあんたの顔が泣き顔なんて、嫌だもの。

怒ったり呆れたりするかもしれないけど、あんた、きっと最後には泣いてくれるでしょう?

あんたの笑い顔だけ持っていくって決めたんだから、それだけは嫌だったの。


大体、あんな風に笑いあったのは過去の話だしね。





視界がぼやけてきた。


ねえ、見て、私今、笑えてるよ。

死ぬときに笑えるのって、幸せだった証なんだって。


ねえ、私、幸せだよ。

あんたと会えて、あんたと笑えて、幸せだった。


記憶の中のあんたが笑いかけてくれる。そうだね。幸せだったね。



過去形にしか話せないのが、ちょっとだけ、寂しかった。









花の白  空の青  私  すべてが消えていく




すべてが消えて  残ったのは  あんたの笑顔




ああ  私  幸せだよ




だって  あんたがそこにいてくれるから




あんたが笑ってくれるから  私も笑えるの




こんなに幸せでいいのかな




ああ  幸せだよ






幸せ  幸せ  しあわ せ

















ホロリと落ちる  一粒の涙




白い大地  青い大空  横たわる君




空は遠い  君を見つけることは出来なかった




君は翔べただろうか  広い  深い  あの天へ






僕は側にいるよ




笑えちゃいないけど  ここにいるよ




君が翔べるように  ずっと見ているからね




僕のことなんか考えないで  思う存分  翔んできな






僕もいつか羽ばたいて  君の元へ行くから










白い大地に  青い大空に  横たわる君に



響く  響く  途切れる事無く



これなら空にも届くだろう  これなら君にも届くだろう



微笑む君に  僕は歌おう





それは




君のための鎮魂歌

04/06/13
















今回書きたかったもの「死にネタ」。腐ってる。頭の中あたりが。