…カラン、カラン、カラン



「やあ、また来たよ」


重い木の扉をおして、一人の青年が入ってきた。


「いらっしゃいま…おう、死神か」


若い店主は、シルクハットに体をすっぽり覆うマント、
そして巨大な鎌を持っている黒づくめの青年を見て、がらりと態度を変えた。


「帽子屋元気かい?いや、元気そうだな」


黒づくめの青年は、その顔を見て言った。
“死神”というのが彼の呼び名らしい。


「まぁ、元気は元気だが。…紅茶でいいか?」


「ああ、それとプリンも頼む」


「お前なぁ…」


死神の注文に帽子屋はあきれた表情をつくる。
こいつの辞書に、遠慮という文字はないのか…。


「プリンはいいぞ、紅茶にも緑茶にも麦茶にもあうんだ」


「プリン…あるっちゃーあるけど…」


死神の熱弁に、眉をよせた帽子屋が言葉を返すと、
すぐさま死神が問いかけてきた。


「プッチンプリンかい?」


「いや、焼きプリンだ」


死神の分の紅茶をいれて、帽子屋は答える。


「邪道だな…まあいいか」


「文句言うな!」


つぶやいた死神に、当然といえば当然の抗議がとんできた。


「今度来るときは、連絡入れろよ。」


「何でだい?」


「普段用意してても、食うやつがいないだろうが。」


軽く首をかしげる死神に、何故か憮然とした表情の帽子屋が返した。
死神はそのまま慣れたように歩き、自分の鎌をコート掛けに立て掛ける。


「そうなのか、プリンは美味いというのに」


刃が壁に当たらないように微調整した後、やはり慣れた様子で来客用のソファに腰を下ろした。


「分かった、今度からは連絡をいれるよ」


「そうしてくれると助かる」


うなずく死神に、帽子屋がカップを手渡す。
死神は中身を一口飲んで、話し出した。


「しかしまあ、今回は急な用だったもので」


「…用って?」


一度キッチンに行って戻ってきた帽子屋の手には、プリンとスプーンが握られている。
両手を差し出す死神に、それを渡してやる。


「ほら、ここを見てくれよ」


「ん?」


「やぶけているだろう?」


「あぁ…酷いなこれ」


少し首をひねってみせた死神の帽子には、確かに大きな穴が開いていた。
シルクの布がビリビリに破けている。


「何したらこんなに破けるんだ?」


「ちょっとコバと真剣勝負をしていてな」


コバというのは、死神の相棒(?)の黒猫のことだ。


「お前、猫相手に何してるんだ…」


呆れた視線を気にもせず、死神はさらに言う。


「君も戦うといい、コバは強いぞー。不覚をとってひっかかれてしまったからな」


「なるほど…まぁ、お前よりは強いらしいからな」


「うむ、それでこの有様さ」


正面から見て、ちょうど右の側面についている無数の傷と大きな穴を
じっくりと眺めて、帽子屋はうなった。


「うーん…」


シルクの布がめくれてしまっている箇所を見ながら、眉を寄せる。


「こりゃ、ちょっと時間がかかるぞ…」


「そうなのか…困ったな…」


あまり困ったように見えない死神がポツリとつぶやいた後、


「この後優雅に散歩をする予定だったんだが」


一言、付け足した。


「全然困ってないだろうが!!」


「このつっこみ、いつ聞いてもいいね」


「おっ前…」


やけに偉そうな態度の死神は、さらに偉そうに言う。


「それじゃあ仕方ないから、今日の午後は君と過ごすとするか」


「……」


「ほら、早く直してくれ」


「…お前何様だっ!毎回毎回、人にタダ仕事させといて…」


「まあまあ、プリンを分けてやるから」


「いらんわっ!!」


ゼハゼハと肩で息をする帽子屋に睨まれ、死神は差し出したスプーンを引っ込めた。


「ああ、それと、紅茶のおかわり頼む」


「…まったく。…ほら」


ズイ、と差し出されたカップに紅茶のお変わりを注ぐ。


「紅茶だけはいつも素直に入れてくれるよな」


右手にスプーンを持ったままの死神が、妙に感心したように言った。


「…うむ、美味い」


「紅茶好きに悪いやつはいない!」


「ははは、君らしいな」


カップを片手に笑う死神に、帽子屋が不機嫌な顔になる。


「いいから、早くその帽子脱げ。」


「脱げといわれると何だか脱ぎたくなくなるな」


「被ったままじゃ直しようがないだろうが!!」


「しょうがないな…ほら」


しぶしぶ、といった様に死神が帽子を脱いで手渡した。
帽子を受け取った帽子屋が、早速じっくりと穴を検分しはじめる。


「何がしょうがないだよ。まったく…」


「頼んだぞ」


プリンを食べながらふんぞり返る死神は、やはり偉そうだ。


「…とりあえず、変わりにこれでも被っとけよ」


ふんぞり返る死神に、帽子屋が自分の被っていた帽子を渡した。
受け取った死神は帽子を被って満足気にうなずく。


「そうそう、頭に何か無いと落ち着かなくてな」


「その気持ちはよく分かるからな…」


「やはり帽子といえば、君の店だな」


「もちろんだ」


死神の褒め言葉に、帽子屋がどこか得意げに口の端をあげた。


「被り心地が違う」


「…」


「紅茶も出る」


「…」


「プリンも出る」


「そこかよ!」


「つっこみも来る。理想の帽子屋だな」


「どんなだよ…まったく…」


ぶつぶつ言いながらも、帽子屋は帽子を直していく。


「ふふふ、からかいがいがあるなあ」


死神が楽しそうにつぶやいた言葉は、帽子屋の耳に入らなかった。







+++おまけ+++++++++++++++++++++++++++++++++++


「そういえば、他の者はどうだい?」


「ん?他の者?」


「やはり元気かい?時計屋とか」


「…死ぬほど元気だよ」


「毎日入り浸られてるみたいだな。…気持ちは分かるが」


「……分かるのか?」


「もちろんだとも。…君の所には自然と人が集まるものなのさ」


「俺は静かに暮らしたい…」


「ははは、それは無理だな」


「ぐっ…」


「まず自分がいるからな」


「お前な!!」


「にぎやかで楽しいだろう」


「賑やかすぎる…。奴らが来ないのなんて、客が来てるときくらいだからな」


「自分も一応客なんだがな」


「一文無しが文句を言うな!」


「それを言われるとさすがに痛いな。ズズーッ…あー美味い」


「まったく…おかわりは?」


「ああ、頂こう」


「ホラ」


「あとどれぐらいで出来そうだい?」


「…まだまだ、だな。」


「今日はおつかいも言い渡されてるんだ」


「中まで傷ついてるぞ、これ」


「さすがコバだ」


「…しょうがない…明日までに直しとくから、今日はそれ被って帰れ。」


「お?いいのかい?」


「おつかいあるんだろう?」


「それじゃあ、そうしようかな」


「おう」


「ありがとう、また明日来るよ」


「明日はプリン用意しといてやるよ」


「これだからこの店に来るのはやめられないな」


「…しまった。墓穴か…!」


「ふふふ、約束だぞ」


「…分かったから、早く行け!!」


「ああ、また明日」


「また明日」




+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



帽子屋「…今日は徹夜だな。(はぁ」



死神「今日はオムライスだな(ルンルン」






                             TO BE CONTINUED...?

04/06/06











「ひまわり組」で共に管理人をやっている藤の「B-Gdn.」という小説のキャラ「帽子屋」とうちの死神のコラボ作品ー!(長)
今回の死神のイメージは杏社長のシルクハットで。やばいです。シルクハットにはまりそう…!

チャットでつくりました。言わずもがな、死神は自分山吹で帽子屋が藤です。死神がやたらとアホなのはそのせいです。
ちなみに、台詞&ページの構成編集はすべて藤がやってくれました。自分は本当死神だけです。
あー!コラボ楽しかった!(最低)

帽子屋って何て素敵なんだろうでも小説読んだ事ないわ是非読みたいって方は、「ひまわり組」の藤のページへGO!