星には、不思議な力があるという。どの土地に行っても星というのはとても神聖なものとされている。
星を見て世の行く末を占ったり、方角を確かめたり、人は星と共に生きてきた。
だから年に一度、人は星を称えるために祭りを行う。笹に願いを込めた紙をさげるのだ。
星はそれを見て、願いをかなえてくれるという。


「…困ったわ…」


そんな聖なる夜に、途方にくれるひとつの影があった。




   Spirit Of Adventurous外伝  〜願いよ叶え星祭り〜




とても穏やかな夜だった。森の中は静まり返り、暖かな沈黙に満ちている。
全てのものが眠りにつく時間。それは、旅人たちも同じだった。
焚き火の跡を囲んで、5人の旅人が眠っている。いや、厳密に言えば1人だけ、星の輝く夜空を見上げていた。


「……綺麗だなあ…」


ボーっと仰向けに寝転がっているのは自称凡人の少年あらしだ。どうも寝そびれてしまったらしい。周りは皆寝静まっている。


「…昼寝しすぎたかな…」


昼はひたすら箱に乗って移動していたので少し昼寝をしたのだが、それがいけなかったのか。パッチリと目が冴えている。
どうしようかと思っていた所に、星空が飛び込んできたのだ。それからずっと空を仰ぎ見ている。


「そういえば星の祭り、そろそろだったよなあ。今日だったりして」


前に聞いた話を思い出す。一年に一度のお祭り。その日になると、願いを書いた長方形の紙を笹にさげるらしい。
あらしはやった事がない。そんなことをボケッと考えていると、一瞬空にキラリと光るものが見えた。


「……ん?」


目を瞬かせていると、その光は今度はより一層強いものとなり、ギラリと光る。
えっと固まっていると、光は流れ星のようにこちらへと降ってきた。
そして次の瞬間、ドンという音と共に焚き火の燃えカスの所に勢いよく光が落ちてきたのだ。


「うわー!」
「な、何ですか一体!こんな真夜中に!」
「もう朝か…?」


凄まじい音と共に飛び起きたのは、敬語だが性格きついオオカミ女の華蓮である。
次に寝ぼけながら体を起こしたのは、よく干からびそうになる男人魚のウミだ。
固まっていたあらしは、フルフル震える腕を光が落ちた方向へと伸ばす。


「あっあっあそこに…空から何かが……」
「…空から?」
「あらしさん…寝ぼけてんじゃないでしょうね」
「いや起きてたし!ほら、そこに落ちてきたんだよ何かが!」


言われて2人も中央を見る。何かが降ってきたそこには、大きな穴が開いていた。煙も出ている。
隕石か何かだろうか。


「…じゃあさっきの音はいびきじゃなく何かが落下した音だったのか」
「いやウミ、あそこまでいびきのデカイ人はいないと思うよ」
「知り合いに歯軋りがまるでチェーンソーのように響く凄い奴はいるが」
「すごい勢いで歯軋りしすぎだよそりゃあ!」
「しかし…あの音でも起きないってある意味凄いですよねこの人たち」


華蓮が呆れた目を向ける先には、仲良くゴロンと寝転がったまま起きる様子のない2人組みがいた。
大口開けてぐーすか寝ているのは全身黒ずくめの悪魔クロで、ムニャムニャと丸まっているのは全身白ずくめの天使シロだ。
普段からなかなか起きない2人だが、ここまで起きないとはいっそ凄いものがある。

とりあえず3人は、ポッカリと開いた穴を覗き込んでみた。煙の間に、何かが動いている。
……動いている?


「っきゃ――――――!」
「「ぎゃ――!」」


いきなり穴の奥から響いてきた叫び声に思わずこちらも声を上げた。
その甲高い声に、さすがのクロとシロもむっくり体を起こしてくる。


「あー?今の頭に響くうるせー音は何だぁ?」
「まだ朝ごはんの時間じゃないわよー」


のんきな2人は置いといて穴をじっと見つめていると、叫び声を発したと思われる影がゆっくりと穴から出てきた。
それは……とても美しい女性だった。


「す、すいません…あなたたちは誰ですか…?」


女性は戸惑いながら尋ねてきた。その周りだけ輝いて見えるのは気のせいなのか。
人間?だと知った華蓮が、立ち上がって口を開く。


「それはこっちのセリフですよ。一体あなた何者なんですか」
「あ、私は織姫といいます。あなた方は…旅人さんですね」
「ええそうです。でも何故空から降ってきたんですか?」
「実は…大変なことが起こってしまって…」
「って待て待て待て待て!」


スラスラと話を進めていく華蓮と自称織姫の女性に勢いよくウミが割り込んだ。
普段はあらしが入ってくるのだが、今回はキョトンとしている。


「どうしたのさウミ」
「いや…あのな…うん、織姫って何なのか知ってるか?」
「名前とかじゃないんだ?」
「はーい!あたし知ってるわー!」


首をかしげるあらしにシロが手を上げてきた。


「織姫さまって、お星さまのお姫さまよねー!」
「えっ星の?!」
「天の川挟んで織姫と彦星という星があるんですよ」


相変わらず年間行事に疎いあらしに華蓮が説明してやった。

織姫と彦星は恋人同士で毎日仕事をせずにいちゃいちゃしていた。
それを怒った織姫の父ちゃんあたりが2人の間に川を、つまり天の川をつくって逢えないようにしてしまった。
それに悲しんでいた織姫が気の毒になり、父ちゃんはある約束をした。

年に一度、七夕の日にだけ会っていいと。


「へえ、そうなんだ」
「でもそれはただのお話だと思うんだが…」
「やっだ、私本当に織姫なんですってばー」


頭をかくウミに自称織姫は手をパタパタさせながら言う。


「でも今は2人ともちゃんと仕事して、毎日会うお許し貰ってるんですよ」
「「そうなんだ?!」」
「昔は私も彦星さんも若かったから…」


きゃっと頬を赤く染める織姫。ではこの人一体何歳なのだろうか。勝手にモジモジしている織姫を眺めて、眠そうなクロが話を戻す。


「で?さっき言ってた大変な事っつーのは何なんだよ?」
「あ、そうなんです!このままじゃ大変な事になるんですよー!」


聞いてくださいよ!と織姫は手をブンブン振り回しながら話してきた。


「私と彦星さんは今日七夕の日にお仕事しなきゃいけないんです!願いを叶えるお仕事を!」
「「願いを叶える?」」
「はい、今日地上の皆さんは願い事を笹にさげるでしょう?その中から7つの願いを選んで叶えるのが私たちのお仕事なんです!」
「へー!叶えてくれんのか!」
「すごーい!」


とたんにクロとシロが目を輝かせた。頭の中にはどんな願いを思い浮かべているのだろうか。
そんな2人にでも!と織姫が話を続ける。


「彦星さんが今日風邪を引いてしまったんですよ!私1人じゃ終わらないし、そしたらお父様にも怒られてしまうんですー!」
「あー、それでまた天の川に阻まれちゃうかもしれない、と」
「その通りなんです!だから私困って、とりあえずこっちに降りてきたんですけど」


あれは落ちてきたのではなくて、降りてきたのか。随分と危険な降り方である。
すると織姫は、手をパンと胸の前で合わせてきた。


「おっお願いします!私のお仕事、手伝ってくれませんか?」
「「え?!」」


いきなりの頼みに5人は顔を見合わせた。しかも織姫からの頼みだ。めったにあるものではない。
しかし、自分たちに願いを叶える事なんてできるのか…。
…とかそんな事を頭で思い描いていたのは、5人の中ごく少数だった。


「よっし!いいぜ!」
「織姫さまのお仕事手伝うなんてステキだわー!」
「少しは躊躇とかためらいとかそんな気持ちを持てーっ!」


すぐにOKの返事を出すクロとシロにあらしが即座につっこんだ。そこに、戸惑った表情のウミも加わる。


「…でも困っている人を見捨てるなんて…」
「お前は心に鬼を持て少しぐらい!」
「……やっぱりダメですか?」


しゅんと項垂れる織姫に、さすがにあらしもうっと言葉をつぐむ。どうせ良い人というか人の良い集団なのだ。
困る人を完全には切り捨てることが出来ない、つまり鬼になりきれていないのだ。


「諦めましょうよあらしさん。夢を見ているとでも思って」
「いっそ夢であれ…」
「じゃあ手伝ってくれるんですか?!ありがとうございます!」


パッと顔を明るくした織姫は、ゴソゴソと懐から紙切れを取り出した。それは長方形で、全部でちょうど7枚あるようだ。


「これが今年叶える願いの短冊です!順番に廻っていきましょう!」
「え、でもどうやって移動するの?ここ森の中だし」
「あ……そうですね」


きょろきょろと周りを見回した織姫は、ボロ箱に目をつけた。


「あれ!あれを使いましょう!」
「「箱?」」
「ええ、でも、この子に引かせれば大丈夫!」


織姫はどこからともなく取り出した笛を夜空に向かってピッと吹いた。
その瞬間、チリンチリンと鈴の音と共に空から何かがやってくる。


「あ、あれは何だ?!鳥か、飛行機か?!」
「いや違う、あれは…!」
「「牛だ!」」


そう、牛だった。茶色い牛がゆっくりとこちらに飛んできたのだ。少し怖い光景である。


「この子、彦星さんの牛なんです。この子に引っ張ってもらえば飛べますよ!」
「きゃーっ!美味しそうー!」
「「食うな食うな!」」


シロの魔の手から守りながら牛を箱につなぐ。そして意気揚々と5人+織姫は箱に乗り込んだ。


「さあ出発しますよ皆さん!行け、カルビ6号!」
「うわー食べる気満々だー」
「お、おいちょっと待ってくれよ!」


これから、という時にクロが必死な顔で止めてきた。何事かと皆が振り返る。


「お前ら忘れてるかも知れねえがオレ高い所ダメなんだ。だから今回はオレパスして」
「出発ー!」
「ぎゃあああああー!」


迷いごとは無視して、牛のひっぱるボロ箱は優雅に星空へと舞い上がっていった。





「まず最初は『ガンダヌのプラモデルが欲しい』です。あ、これは簡単ですね!」
「まるでクリスマスの願い事みたいですね…」


短冊の願い事を読み上げる織姫に華蓮が呆れたように言う。眼下にはこの願いを書いた誰かの街が広がっていた。


「でもそのプラモデル、どうやって調達するの?買うの?」
「金はあるのか?」
「そんな、お金で買うような事なんてしませんよー」


尋ねるあらしとウミにそうやって返して、織姫は牛に降りるように指示した。
箱は滑るように静かに、ある店の前へと降り立った。


「ここにそのプラモデルがあります」
「…あ、分かった、ここの店から貰うんだそのプラモデルってやつ」
「うふふ、正解です」


微笑みながら織姫はスタスタと店のショーウインドウの前まで歩いていった。
そしてそのまま手刀でパリンとガラスを割ると、ちょうどそこにあったガンダヌのプラモデルをさっと抜き取ってくる。


「このお店から、頂くんです」
「「それは窃盗だー!」」
「まあそうとも言うかもしれませんが…これでこの子の願いが叶うのなら、些細な事です」
「「全然些細な事じゃねえー!」」


さらりと美しい姿で笑いながらガラスを割って盗みを働くとは、すごい織姫である。
さらにそのまま織姫は次の短冊を読み上げた。


「あっ、次の願い事は『ルカちゃん人形が買えますように』ですよ!ついでですからここで調達しちゃいましょう!」
「「……はい…」」


何だか逆らうのは怖かったので、とりあえず織姫の言うことを聞いておいた5人だった。





盗んだ…いや頂いたおもちゃ2個をそれぞれ短冊のさがっていた笹の下に置くと、再び箱は宙を移動し始めた。


「わー!一気に2個も願いを叶えてしまいましたよ!皆さんすごいです!」
「いや今のはほとんどあんたが」
「しっウミ!とりあえず黙っとけここは!」


正直者のウミが口を滑らせる前にあらしが止めておいた。その間に、シロが織姫の持っている短冊を覗き込む。


「次のお願いってなあにー?」
「あ、そうですね、次は…これです!」


織姫が差し出してきた短冊をどれどれと全員で覗き込んでみた。それには、こんな事が書かれていた。


『世界征服したい  鈴

ビリッ


「ああっ!何て事するんですか!選ばれた短冊だというのに!」
「いらんいらん!こんな願いいらん!」


短冊をびりびりに破くあらしの言葉に全員で頷く。その様子を、織姫はおろおろとしながら見ていた。


「でも願いは平等に叶えるものだって彦星さんが」
「いやあれはいいって。願い自体も非常に危険なものだったし」
「あんな外道願いを叶えてやる価値もないんですから、先に行きましょう」
「そ、そうですか?それなら…次はこれです」


次はましなものであるように祈りつつ、次の短冊を全員で眺めた。


『プリン一年分  死

ビリッ


「ああっ!またもや何て事を!」
「えーい別次元まで出現すんなっ!」
「どこの笹から取ってきたんだこれ…」


短冊はチリになるまで破かれ、空中に散っていった。
ちなみに、普段から何かとうるさいクロはさっきから高さにビビッて縮こまっている。


「もうちょっとマシな願いはないんですか」
「あ、次のはどうです?『長生きできますように』!」
「おお、ごく平凡な願い」


全員でほっと息をついていると、縮こまっていたクロが震える声で言ってきた。


「……で、それは具体的にどーすりゃいいんだよ…」
「「あ」」


それもそうだ。長生きなんて、物でどうこうできるものではない。
しかし、まったくためらいを見せずに発言してきたのはシロだった。


「簡単よー!健康にいいもの食べれば長生きできるわー!」


何ともシロらしい、しかし一理ある意見だ。


「そうですね!じゃあ適当に健康にいい食べ物を持ってきましょう!」
「今適当とか言ったぞこの織姫」
「まあ、別にいいんですけどねもう」
「ああそうだ!私、健康にいい食べ物知ってますよ!」


にっこり笑った織姫は箱を地面に降ろすと少しの間どこかへと消えた。そしてすぐに戻ってきた。
強烈な酸っぱい匂いと共に。


「「すっぱっ!」」
「お酢は健康にすごくいいんだって、誰かに聞きました!」
「ちょっと待て誰に聞いたんだよ誰に!」
「間違ってはいませんが…何ですかこの匂いは…」
「ただのお酢じゃないなそれ…」


皆が匂いにピクピクなっている間に織姫は平然と酢を笹の下においてきた。鼻でも詰まっているのだろうかこの女。
オオカミ女の華蓮なんかは鼻が効くのかぐったりとしている。


「さて!次の願いにいきましょう!」
「いきましょいきましょー!」


さすが食べ物の匂いだからか、シロはピンピンしている。織姫が、残り少ない短冊を一枚とって読み上げた。


「えっと、『今年こそあいつに想いを伝えたい』ですってー!男性の方ですよ!」
「きゃー!片思いなのねー!」
「短冊に書くなんてヘタレた野郎ですね」


盛り上がる女子2人に対して何とも厳しい大人華蓮。


「でもこれって、本人の問題じゃないの?」
「そうだぞ、俺たちがどうこうできる願いじゃないと思うんだが」
「他のやつの恋模様なんざどーでもいいっつーの」


比べて男3人はあまり興味がないようだ。今箱は地面に止まったままなので、クロは元気になっている。


「こんなのはよお、偽の手紙でも書いときゃいーんだよ!」
「おお、ラブレターってやつか」
「クロそれ名案ねー!」
「では私が書きますから、皆さん内容を言ってください!」


織姫がまたどこからともなく可愛らしい便箋と筆を取り出した。男がラブレターに可愛らしい便箋を使うだろうか。


「書き始めはどうしましょう」
「最初はまず挨拶だろう?」
「『こんにちはー!』よねー」
「甘いぜ!ここは気品あふれる挨拶『ボンジュール』だろ!」
「見る時間がきっと朝でしょうから、『おはよう』でしょう」
「私は『アンニョンハシムニカ』がいいと思うんですけど」
「うわー!一行目でつっかかっちゃったよ!」


5人と織姫はあーだこーだ言いながらラブレターを完成させていった。
相手が誰だかわからないが、全員で作った手紙なのだ。いいものが出来上がるに違いない。

そして、とうとうラブレターが完成した。


「それでは、完成したラブレターを読んでみたいと思います!」
「「イエーイ!」」


ラブレターを、織姫の綺麗な声が読み上げる。


『おはこんばんにちは。お元気でしょうか。オレ様は元気です。
 前略。このかっちょいいオレ様と付き合ってください。そうすれば保険料は全てあなたのものです。
 オレ様に惚れやがれ!   P.S お腹すいた』


しばらく痛い沈黙が流れた。確かにこれは皆の合作ではあるがラブレターからは程遠いもののように思えた。
しかし、織姫はとたんに目を輝かせる。


「素晴らしいです!これなら相手もイチコロ☆ですね!」
「あー…うん…そ、そうかなあ…」
「ある意味イチコロですがね…」
「さっそく出してきましょう!」


箱をビュンビュン移動させた織姫はさっさと手紙を出してきてしまった。
そこはどうやら何かのお店だったようで、赤と白と青のポールがくるくると回っている。
とりあえず5人は心の中で謝っておいた。

ごめんね名も知らぬ恋する男よ。これで恋が終わりを告げてしまったりしても…なるべく恨まないで欲しい。





「とうとうこれが最後のお願いですよ!」
「わーい!最後最後ー!」
「やっと終わるのか…」


再び空を飛ぶ箱の上で皆は歓声を上げた。さすがに肉体的にも精神的にも疲れている。
あらしはぐったりとしながらも、チラッと外を眺めた。確かに疲れたが、今日はとても良い経験をしたと思う。
このボロ箱に乗って星の中を駆けていった事が本当に夢のようだ。


「最後の願いってどんなの?」
「早く早くー!」
「はい!これです!」


織姫が微笑みながら出した最後の短冊には、こう書かれていた。


『今年も彦星さんと一緒に仲良く暮らせますように』


「……あっ…!」
「「……!」」


ちらっと顔を上げると、織姫の顔は真っ赤になっていた。それを見て、華蓮が意地悪そうにニヤッと笑う。


「織姫様もお願い事、するものなんですね」
「やっあのっこれはっちょ、ちょっと書いてみただけなんです!」


あたふたと短冊を隠してしまった織姫に、シロが笑いかけた。


「じゃあ、今すぐ帰らなきゃ織姫さまー」
「え、え?」
「そうだよ。帰って彦星さんの看病してあげなきゃ」


続けてあらしにもそう言われ、織姫は顔を伏せてしまった。


「でっでも…」
「これが最後の願い事なんだから、遠慮することないんだぞ」
「おおよ、めいいっぱいラヴラヴイチャイチャしてこいよ」


ウミも震えるクロもそうやって言うので、織姫は顔を上げてニッコリと笑顔を作った。


「……はい…!そうさせてもらいます、皆さんありがとうございます…!」
「「いやいや」」
「では私も最後に、皆さんの願い事を叶えたいと思います!」


織姫に笑顔のままそう言われ、5人は目をパチクリさせた。自分たちの願い?


「それでは、来年にまた会えるといいですね!」
「え、あの、ちょっと」
「皆さんお元気で!では…願いよ叶えっ!」


織姫がパッと手を広げた瞬間、周りを取り囲んでいた星たちが一斉にピカッと光った。
空を飛ぶボロ箱は、一瞬のうちに光に飲まれる。

最後に、さようなら、という織姫の声が聞こえたような気がした。





チュンチュンと鳥の鳴き声が森に響く。木と木の間から覗く朝日が柔らかく辺りを包み込んでいる。
そしてその中で、あらしはボーっと座っていた。


「……あれ?」


我に返って周りを見てみると…仲間たちが同じようにボーっと座っている。どうやら今までぐっすり眠り込んでいたようだ。
森の朝の匂いが立ち込める中、ポツリとウミが口を開いた。


「…さっきまで実に不思議な夢を見ていた」
「あ、僕も」
「私もです」
「あたしもよー」
「何でえ、皆で変な夢見てたんじゃねーか」


立ち上がったクロがぐーんと伸びをする。それを見て、他の4人もやっと動き出した。
朝ごはんの準備をして、皆で食べる。そして真ん中に開いている穴を不思議に思いながら皆で片付けて、出発の準備だ。


「なあ、これからどこに行くんだ?」
「食べ物のたっくさんある所がいいわー!」
「とりあえず水のある場所がいい」
「どこだっていいじゃないか、どこにでも行けるんだから」
「さあ、出発しましょう」


全員がボロ箱に乗り込んで、出発した。

あらしがふと空を見上げると、誰かが手を振っているような気がした。
2人ぐらいの男女が寄り添って仲良さげにこちらに手を振っている。牛の鳴き声まで聞こえるようだった。
しかし、瞬きをしているうちに、幻は消えた。


箱はいつもと変わらないペースで前へ進む。先は見えないが、昨日と変わらぬ仲間たちと共に前へ、前へと。
それが変わる事はない。道はいつまでも、いつまでも続いているのだから。


前方に星が1つ、煌いたように見えた。











願いが叶うといいなSOA七夕スペシャル!
の提供でお送りいたしました。やたらと長くなりました。予想外でした。織姫のせいとでも言っておきましょう。
なお、今回はちょこちょこ別なお話の奴も少しだけ織り交ぜました。全部が分かった人は、よほどの山吹通ですね!

ただいまこの小説はフリーではありません。
でもほしいなーと思ってくださる方がいらっしゃいましたら…連絡さえ下さればいくらでも持ってってください。限定の意味無し!