おもちゃ屋さんに飾ってあるサンタの人形を見ていた女の人と女の子は、


「ねえおかあさん、クリスマスイヴにはサンタさんがプレゼント持ってきてくれるんだよね!」

「そうよ、でも、サンタさんは良い子にしかプレゼントは持ってきてくれないのよ」

「えー!ねえねえ、私良い子だよね!」

「うふふ、さあどうでしょうね?」


そんな仲睦まじい親子の会話を聞いていた小学生の男子達は、


「お前、今もサンタ信じてるか?」

「信じてるわけないだろ?父ちゃんが夜に置いてってるんだよ」

「だよなー。じゃあ、クリスマスプレゼントは何頼んだんだ?」

「へへへ、あれだよ、今度新しく出たゲーム!」

「良いなー!俺はなー…」


そんな子ども達の会話を聞いていたサラリーマンらしき大人2人は、


「もうクリスマスか…まだプレゼントは買ってきて無いんだよな…」

「俺のところはもうプレゼントは無しさ。子どもにそう言った。ケーキで我慢してくれって」

「情けないけど、この不景気じゃあ仕方ないよな」

「ああ、年末も色々金使うしな…」


そのすべての会話を聞いていたのは、真っ黒の服を着た1人の死神だった。




   黒服のサンタクロース




少年が部屋で本を読んでいると、どたどたと急いだ様子で散歩に行っていた死神が部屋に入ってきた。


「ただいまっ!」
「おかえりー」
「なあ、少し聞きたいことがあるのだが」
「何?」
「サンタとは、一体どのような姿をしてるんだ?」
「…は?」


思いがけない質問に、少年は思わず読んでいた本から顔を上げて死神を見つめた。
その顔は、いつも通り真顔であったが。


「…サンタクロースを知ってるの?」
「知ってる、が、本名は知らなかった。サンタクロースというのか」
「ふーん…またどこかで立ち聞きしたとか?」
「何故分かったんだ」
「いや…何となく…」


とりあえず死神の質問に答えるために、少年は体を起こした。


「サンタクロースというのは、真っ白のヒゲにプレゼントの入った袋を持って赤い服を着たおじいさんで…」
「ふむふむ」
「トナカイにソリを引かせて、クリスマスにプレゼントを配りまわる人のことだよ」
「ほう、トナカイにソリか…」


熱心に話を聞く死神に、しかし少年は悪い予感しか感じる事が出来ない。


「そこで尋ねるが」
「ん?」
「君はそのサンタクロースを信じるか?」
「…答えはノー、だな」


もっとも、少年もサンタクロースを信じていた時があった。しかし、


「いつの間にかサンタはいないって、気付いていったのかな」
「よしわかった、ありがとう」


満足そうに頷いた死神は、ストーブの前で丸まっていたコバを拾い上げてまたスタスタと外へと歩き出した。


「どこ行くんだ?」
「準備だ」
「…にゃあー」
「はあ?何の?」
「それは企業秘密だ」


どんな企業だよ、と、少しずれた少年のつっこみは、すでに部屋から出て行った死神には届かなかった。



死神が何をたくらんでいるのか少年は知る事の無いまま、クリスマスイヴとなる。



町はクリスマス一色。店やら木やらは電球が巻きつけられ、チカチカといろんな色を光らせている。
少年の家にはツリーはなかったが、それなりにケーキを食べてクリスマスというものを祝った。
特に少年は浮かれた気分ではなかったが。

そういえば死神の姿がさっきから見当たらない。
少し気になったが、少年はさっさと寝ることにした。クラスで行われたクリスマスパーティで疲れたのだ。


この夜、サンタを信じて眠る子どもが何人いるだろう。
少年は自分が良い子だとは思ってなかったし、ましてやプレゼントを配りに来るサンタクロースとかいう人物が存在するなどとは考えてもいなかった。
そして少年はすでに前日にちょっとしたクリスマスプレゼントを親から貰っている。
というわけで、少年は明日の朝に何の希望も抱かないまま眠りについたのだった。


しかし、静まり返った真夜中。


がたんとやけに派手な物音で少年は目覚めた。
部屋がやけに冷える。と窓を見たら、しっかりと開いていた。
そして、ぼんやりと人影が浮かび上がっていたのだ。


「…?!」


泥棒か、と思って飛び起きた少年にかけられた声は、思わず力が抜けるほど聞きなれたもので。


「メリークリスマース」
「…一体何してんだ死神…」


死神と思われる人物は、少年の言葉にブンブンと首を振った。


「違う、死神ではない、自分はサンタクロースだ」
「にゃあーん」
「…どう見てもそうには見えないんだけど…」


大体その自称サンタは全身が真っ黒だった。服はいつもの通りなのだが、頭の帽子も黒、長靴も黒、全部黒。
しかもプレゼントの入った袋まで黒くて、おまけに鎌にくくりつけて肩に担いでいる。
隣には何だか頭に木の棒2本が付けられた黒猫まで控えている。これは、トナカイという奴だろうか。
少年は、よくこんなに黒に統一出来たなーと思わず感心してしまったり。


「これのどこかサンタクロースに見えないというのだ」
「いや全部っていうかすべてっていうか…むしろサンタクロースの要素はあるのかどうかさえ疑わしいし…」
「まあつべこべ言うな、自分はサンタだ」
「…あっそ…」


サンタになるつもりだったのかーと、数日前の死神の様子を少年はぼんやり思い出した。


「えーと…サンタさん、つまりサンタさんはうちにプレゼントを届けにきたんですか?」
「その通りだ」
「へえ…」


死…いや、黒サンタが用意してくれたプレゼントというものはどんなものだろう。少年はすこしワクワクしてきた。
すると、黒サンタは鎌から袋をはずし、いそいそとその中に自分が潜り込んでいった。
とても何か言いたかったが、少年はしばらく黒サンタをじっと見つめてみる。
完全に袋の中に入った黒サンタは、そのまま意気揚々と喋り出した。


「さあ、受け取れ!」
「何を?!」
「何をって、プレゼントに決まってるじゃないか」
「…まさかとは思うけど、その袋の中身はサンタしか入ってないとか…?」
「そのまさかだ」
「いらない」
「何だ、やけに即答だな」


もぞもぞと黒サンタが顔だけ袋から出してきた。


「サンタクロースがプレゼントだなんて、なかなか無い体験だぞ」
「だってこのサンタパチモンだし、サンタ貰ってもどうにもならないし…」
「年中プレゼントが貰えるかもしれないじゃないか」
「プレゼント全部サンタっぽいし」
「むむう…なかなか鋭いところを突いてくるな…」


どうして死神がサンタをやって、サンタをプレゼントしてくるのかが少年にはどうしても分からない。


「サンタを貰えるなんて、ラッキーだとは思わないか?」
「ええ?」
「何てったって、誰も持ってないものだからな。サンタ本人も持っていないものだ」
「は?」


余計に訳が分からなくてなってきた。


「どういう意味だよ」
「幼い子ども達はみな、自分の中にサンタが存在している。しかし、大きくなるにつれサンタは消えていってしまうらしい」
「…え?」
「だから、君にサンタを取り戻してやろうと思ってな」
「…」
「さあ遠慮はいらないぞ、今ならトナカイもついてくるんだから」
「にゃあ」


少年はそっと顔を伏せた。少しでも、今嬉しいと思ってしまったのだ。
サンタクロースはいないと少年は思っているが、今確かに少年の中にサンタが戻ってきたような気がした。


「…それじゃあ仕方ないから貰おうかな…」
「ああ、しかしサンタは色々忙しいからな、代わりのものをプレゼントしよう」
「代わり?」
「明日の朝のお楽しみだ。それじゃあな」
「にゃあー」


黒サンタは袋から出ると、眠そうなコバを引き連れてまた窓からよいしょと出て行った。


「…何だったんだ一体…」


叩き起こされた状態だった少年は、疑問がいろいろ残っていたがすぐに眠りの世界へと入っていった。




翌日の朝。クリスマス当日。


「ああーっ、よく寝たー!変な夢見たような気がするんだけど…いやむしろ夢だったんだろうか…」


ベッドから起き上がってグーンと伸びをした少年は、ふと床を見た。そこには…。

布団でぐるぐる簀巻き状態の死神が。


「な…」


思わず少年が絶句していると、死神がごろんとこちらに顔を向けてきた。


「やあおはよう」
「お、おはよ…ねえ、何、やってるの?」
「プレゼントだ」
「はあ?」
「サンタがプレゼントの代わりに自分を置いていったんだ」
「いや、元から死神ここにいたし…」
「さあ朝飯だ。今日はクリスマスだからきっと豪華だろう」


布団から這い出た死神は少年にかまわずスタスタと歩いていってしまった。
少年が仕方なくベッドから出ると、疲れた様子のコバがストーブの前で丸くなっていた。


「…お疲れさん」
「にゃあ」


ふと窓の外を見ると真っ白だった。ホワイトクリスマスだ。外はきっと寒いだろう。

今日は死神に何かクリスマスプレゼントでも買ってやるか。そんなことを考えながら少年は部屋から出て行った。

03/12/20










死神と少年クリスマススペシャルッ!
の提供でお送りいたしました。

えーフリーでしたが今は違いますので持ち帰らないで下さいね。
あ、でも「欲しい」っていう人がいたら連絡してくれれば持って帰っても全然OKです(爆)
連絡はして下さい。いないと思うけど。