web拍手お礼 −第3弾−  短編小説続編+αスペシャル編 






拍手御礼   −黒子と俺と一輪の花−



俺が黒子と共の部屋で雑誌を読んでいると、テレビを見ていた黒子がいきなり話しかけてきた。


「修司」
「何だ?」


俺は雑誌から目を離さずに返事をする。
黒子は気にした様子もなく、普通にこう尋ねてきた。


「もし私が草原に生えている一輪の花だったらどうする?」
「…は?」


俺は思わず顔をあげた。何だその質問。とうとう本物の電波女にでもなってしまったか?
きっと俺はおかしな顔をしていたに違いない。
黒子はそんな俺を見つめながら、ピッとテレビを指差した。


『もし私が草原に生えている一輪の花だったらどうする?』


ちょうどやっているドラマのヒロインがそんな事を言っていた。
…どうやら一字一句間違えずにそのまま俺に尋ねてきたらしい。
ドラマの主人公は、ヒロインにこう言ってやっている。


『俺は太陽になって、君を暖かく照らしてやりたいな』


おいおいどこのかっこつけボーイだよ。よくそんな恥ずかしい台詞が言えるな。
…黒子、まさか俺にこれを言わせるつもりなのか?
しかし黒子は、ドラマの台詞を聞いた後、1つ付け足してきた。


「修司なら、何て言う?」


俺なら、何て言うかだと?…答えろってか。それを、今、ここで。
俺は特に考えもせずに、直感でこう答えた。


「俺なら、その花の横に生えている雑草あたりでいいよ」
「何で?」
「その他大勢の雑草の中で、一番花に近いところに生えてやるんだ」
「……」
「そんでもって花と養分吸い取り合戦して、負けて、それでも花のすぐ隣で生きてやる」


黒子はじっと俺を見ている。俺も、黒子を見ている。
そして唐突に、雑誌で顔を隠した。

まさか、俺、さっきのかっこつけボーイより恥ずかしい事言わなかったか?

黒子が俺の顔を見てにやっと笑った。その顔も可愛いって思うんだから俺もつくづく終わってるよな。


「それなら私も修司と同じ雑草になるわ」
「ああそうかよ」
「同じ雑草同士、よろしく」
「……ああよろしくよろしく」


しばらく俺は、顔をあげられそうに無い。




おまけ

「じゃあ逆だったどうするんだ?俺が花。お前は?やっぱ雑草か?それとも花か?」
「そしたら私は大地になるわ」
「大地?」
「修司の足元で、修司をいつまでも支えるの。修司が土に還るまで」
「……」


何となく、黒子に負けた気がした。




※その他の小説「黒子と俺の出会い」から。
 空キャン的これでも十分バカップル小説。見れば見るほど奇妙な2人です。






拍手御礼   −月遊び−



この町の裏山には、隠れるように1つの小さな神社が存在している。
ふもとには有名な月読様を祭る神社があるし、ボロボロになっているのであまり知られてはいないが。

人が来るといえば、近頃、近くの学校の子供たちがまるで肝試しをするように訪れるぐらい。


「……なあ、お前が行けよ」
「嫌だよ……あ、お前が言い出したんだから、お前が一番だ!」
「み、皆で一緒に行けばいいだろ!」


今日もどこかの男子生徒が数人、神社の入り口で立ち尽くしていた。
学校帰りなので辺りは橙色に染まっている。その中に、森の木々の影に隠れるように社は建っているのだ。
どうやら奥にある社にタッチして戻ってくる、という単純な度胸試しのようだが……。


「でもさあ……ここ出るんだって、誰か言ってたよ」
「で、出るわけないだろ!まだ夕方だし……!」
「そうだよ、出るとしたって、一体何が出るのさ……」
「ねえ、ちょっとあんたたち」
「「!!ぎゃあああ!」」


いきなり背後から聞こえてきた声に、男の子達はびっくりして飛び上がった。
恐る恐る振り向けば、そこにいたのは……。


「……な、なんだ……お前か……」


赤いランドセルを背負った同じクラスの少女だった。
ほっと息をつく男の子達に、おかっぱの少女はしっしっと手を振った。


「あんたたち、邪魔。そこどいてよ」
「「え?」」


少女は男の子達の間をすり抜けて、ためらう事無く神社へと近付いていく。
その姿に、男の子の中の1人が思わず手を伸ばしていた。


「お、お前、何して……」
「ねえ、遊びましょ」


しかし少女はそれを無視して、神社へと話しかけた。目を点にする男の子達。
何してるんだともう一度問いかけようとしたその時、少女への答えが返ってきた。


「いいよ。遊ぼ」


一瞬、男の子達にはどこから声が聞こえたのか分からなかった。
そこで慌てて辺りを見回したのだが……答えの居所は意外な場所に座っていた。

まさか、神社の屋根の上に、1人の少年が座っているなんて。


「今日は、何する」
「あのね、縄跳び持ってきたのよ。一緒に飛びましょ」
「飛ぶ」


何故か黄色いキツネのお面を被った少年は、少女の言葉に頷いて、ひょいと屋根から飛び降りた。
ひっと息を呑む男の子達。
しかし、少年は体重を感じさせない身軽さでストンと地面に着地した。


「私がまわすから、入ってきてね」
「うん、入る」


そこで少女はまだそこに立ち尽くす男の子達に気づいた。
しばらく考えてから、縄跳びを突きつけてみる。


「あんたたちもやる?」
「……あ……」


何とか声を絞り出す1人の男の子。少女が少年と共に首をかしげていると、


「「ぎゃああああーっ!」」


男の子達は我先にと逃げ出していった。

屋根から飛び降りてあんなに無事な人間なんて、いるはずないのだ。
それに、男の子達には、一瞬見えてしまったのだ。


夕日に照らされ、金色に光る少年の美しい尾を。


誰もいなくなった神社の広場で、しかし少女は少年に向き直る。


「私、その尻尾好きなのに」


そう言う少女に、少年は笑うようにちょこんと首を動かした。


「じゃあ始めましょ」
「うん」



「おキツネさん お入んなさい さあどうぞ」


ぴょん ぴょん ぴょん

ぴょん ぴょん ぴょん



夕焼けの空に、少女と少年の笑い声は楽しそうに響いていた。

わずかにちらりと空の端へ姿を現す真っ白なお月様も、まるで笑うように真っ赤な空で揺れていた。




※その他の小説「月祭り」から。
 キツネで甚平少年という自分の好みを最大限に生かした小説です。







拍手御礼   −酢男は止まらないどころか突っ走る−



「近頃考えたんだ」

「何をですか」

「世の中を酢まみれにするには、何が必要かと」

「考えるなそんな地獄絵図!」

「そこで思いついたんだ」

「思いついちゃったのかよ!……一体何なんですか」

「世界一の酢を作り出せば良い」

「何で?!」

「世界一の酢という事は、それはもう大変素晴らしい酢という訳だろう」

「素晴らしい酢の基準が分かりませんが、まあそういう事ではあるでしょうね」

「つまり、そこまで素晴らしい酢ならば酢アレルギーな人でも一瞬で虜になるだろう」

「いやアレルギーだけはダメだろ!所詮酢なんだから!」

「貴様……酢を侮辱したな」

「ぎゃー!僕の顔に酢が塗りたくられたごぼうが押し付けられるー!」

「酢に謝れ」

「すいませんすいませんもう言いませんごめんなさいって何で酢に謝らなければいけないんだー!」

「では何に謝ると?」

「え……そ、そりゃ侮辱されたと感じたススさんにでしょう」

「俺にか」

「少なくとも無機物の酢に謝る必要性を感じることが出来ないんですが」

「つまり俺が酢に匹敵するほど素晴らしいと」

「そこまで言ってねえー!まず素晴らしくも何ともねえー!」

「謙遜するな」

「する気も起きねえよ!」

「まあ、そういうわけで世界一の酢を作り出そうと考えたわけだ」

「はあ……そうですか」

「さっそく昨日試作品を完成させたわけだが」

「うわ何か匂いが!酸っぱい匂いが漂ってきはじめた!今までも十分漂ってたのに!」

「その試作品が、これだ」

「ひぃぃ!ちょっとそれ本当に酢?!紫色に変色してるんですけど?!」

「実際に調合した俺より他の者に味見させるのが一番だと思ってな」

「え、まさかあんた僕にそれ飲ませる気じゃ……」

「名づけて『ハイパーミラクルエンジェルマックス酢リミックスネオ改良型ナンバー009番』アミノ酸配合」

「アミノ酸いらねえー!どこがエンジェルだこのパープル酢!」

「さあ、ぐいっといけ」

「ぐいっとって!無理!だって僕人間ですもん!真人間ですもん!」

「何を言う。俺についてきているくせに」

「あっ今自分を異常者だと認める発言しましたね?!しましたよね?!」

「遠慮するなほら、飲め」

「いやそんな極太ストローまでつけてそんな……いやぁぁぁぁぁ!」


その後、1つの町が消えた。
ある町人の話によると、「いきなり紫色の液体が襲い掛かってきた」との事。
真相を知るものは、いない。




※その他の小説「酢男は止まらない」から。
 1番自分がイキイキしているのが見えて軽くへこみます。







拍手御礼   −ある夕飯時の旅人達−



「今日の食事当番って誰だっけ」

「おう!オレだオレ!」

「クロさんですか……」

「おい何だよカレン、オレの腕が信じられないってか?」

「確かに……不安だよな……」

「ウミまで何だよ魚のくせに!さばくぞコラ!」

「魚じゃない人魚だ!」

「どうでもいいからお腹すいたわー!ご飯ご飯ー!」

「待ってろって!それまでシロお前何かかじっとけよ」

「だからと言って何で俺を見るんだ?シロ、ちょ、ちょっと待っ……ぎゃああ!」


「んで、今日は何つくりゃいいんだ?リクエストあるか?」

「はい!」

「何だ珍しいじゃねーかあらし。何だ?」

「味噌汁」

「何でそうジジ臭いんですかあなたは」

「味噌汁をジジ臭い言うなあ!美味いじゃんか味噌汁!」

「そりゃ確かに美味しい事は美味しいですが」

「旅してたらそんな食べれるものじゃないんだぞ!」

「んじゃ味噌汁作るぞー!ちょうど味噌も豆腐もあるし」

「ワカメならウミさんがタルの中に栽培してましたよ」

「んだよあいつそんなもの隠し持ってたのかよ」

「あ、本当に作ってくれるんだ」

「任せとけ!味噌汁なら母ちゃんに嫌というほど作らされたからな!」

「それはそれは、楽しみですね」

「わーい!ご飯ご飯ー!」

「……うう……今日は右手をかじられた……」

(いつ見ても不憫だなあウミ……)



「さあ食えてめえら!遠慮せずに!」

「……お、美味い」

「あ、本当ですね……美味しい」

「これだよこれこれ、これが味噌汁だよ!」

「クロー!これすっごく美味しいわー!」

「だろー?まあオレの力にかかればこんなのお茶の子さいさいってもんよ!」

「これなら明日も作ってよクロ」

「おお!いいぜ!」

「それじゃあ、明後日もよろしくな」

「明後日もか?」

「明々後日もその次の日もよろしくお願いします」

「あたしのために美味しいもの作ってねー!」

「ってオレはコックじゃねえよ!順番だ順番ー!」


その日、辺りには味噌の美味しそうな匂いが立ち込めていた。




※何故か長編「Spirit Of Adventurous」から。
 本編に出せなかった料理風景と実はクロは料理上手いというのを拍手で出してしまったようです。




あと、もう1つ「月夜」ってのがあったんですが、意味不明なうえにアレな内容だったために時空の彼方に消し去りました。